大蛇(おろち)が巣食う洞穴(どうけつ)は、村の横の山にある。
絶壁なうえ、岩場が険しく、神輿を担ぐ村の男たちの素足は血まみれになっていた。
大蛇はどこから見張っているか、わからない。
普段なら、奴婢のためにここまでしないが、形だけでも村長の娘らしく見せる必要があった。
咲紀の父親も神輿に付き添う。
時おり、布でわざとらしくめそめそと、流しもしない涙をふく真似をする。
「うぅ・・・っ。咲紀、すまないなぁ」
(演技などもはや不要です、旦那さま)
奴婢はそっと、心のなかでつぶやく。
顔に被せられた布の隙間から、天を仰いだ。
(天候が変わってきている・・・。時期に嵐になるわ)
もう、大蛇は感づいている。娘はそう思った。
予感は的中。
しとしとと小雨が降り出し、次第にごうごうと強風が吹き荒れ、雨を巻き込み強烈な嵐を呼び始めた。
「こ、これはなんとしたことか・・・!」
村長はおののき、一行は立ち往生する。もはや目を開けていられないほどの突風が吹き荒れていた。
村の男たちは、顔を雨からかばいながら、叫ぶ。
「村長! これじゃ、前に進めませんよ! 下手すりゃ、全員死んじまいますっ!」
「もしかして、咲紀さまじゃないと大蛇さまにバレたんじゃ・・・!」
男たちは、巣穴に近づくのを恐れ始めていた。怒り心頭の大蛇(おおへび)のもとへ行くなど、自ら喰われに行くようなものだ。
村長は「うぬぬ・・・」と歯噛(はが)みしていたが、追い打ちをかけるように、山の頂上へ、突如雷が落ちた。
地面が激しく揺さぶられる。
足元がぐらつく。
たまらず神輿は男たちの肩から滑り落ち、娘は硬い岩場へあっさり投げ出された。
はずみで頭を強打する。
「いっ・・・!」
額(ひたい)が裂けた。顔を隠していた白い布を、真っ赤な血がみるみる染めてゆく。
「おい! 貴様、神聖な服を汚しおって!」
村長はカッとなると、娘の襟(えり)に掴みかかった。
娘は返事をしなかった。
首はだらりとさがる。
体は岩場に投げ出されている。揺さぶっても頬を叩いても、ぴくりともしない。
「まさか!」
――死んだのか!?
嫌な予感が、男の脳裏をよぎった。
この奴婢は、従順だ。このように怒鳴り付ければ、必ず土下座する。そのように教育してきた。
それが、ピクリともせずまぶたを閉じている。
絶壁なうえ、岩場が険しく、神輿を担ぐ村の男たちの素足は血まみれになっていた。
大蛇はどこから見張っているか、わからない。
普段なら、奴婢のためにここまでしないが、形だけでも村長の娘らしく見せる必要があった。
咲紀の父親も神輿に付き添う。
時おり、布でわざとらしくめそめそと、流しもしない涙をふく真似をする。
「うぅ・・・っ。咲紀、すまないなぁ」
(演技などもはや不要です、旦那さま)
奴婢はそっと、心のなかでつぶやく。
顔に被せられた布の隙間から、天を仰いだ。
(天候が変わってきている・・・。時期に嵐になるわ)
もう、大蛇は感づいている。娘はそう思った。
予感は的中。
しとしとと小雨が降り出し、次第にごうごうと強風が吹き荒れ、雨を巻き込み強烈な嵐を呼び始めた。
「こ、これはなんとしたことか・・・!」
村長はおののき、一行は立ち往生する。もはや目を開けていられないほどの突風が吹き荒れていた。
村の男たちは、顔を雨からかばいながら、叫ぶ。
「村長! これじゃ、前に進めませんよ! 下手すりゃ、全員死んじまいますっ!」
「もしかして、咲紀さまじゃないと大蛇さまにバレたんじゃ・・・!」
男たちは、巣穴に近づくのを恐れ始めていた。怒り心頭の大蛇(おおへび)のもとへ行くなど、自ら喰われに行くようなものだ。
村長は「うぬぬ・・・」と歯噛(はが)みしていたが、追い打ちをかけるように、山の頂上へ、突如雷が落ちた。
地面が激しく揺さぶられる。
足元がぐらつく。
たまらず神輿は男たちの肩から滑り落ち、娘は硬い岩場へあっさり投げ出された。
はずみで頭を強打する。
「いっ・・・!」
額(ひたい)が裂けた。顔を隠していた白い布を、真っ赤な血がみるみる染めてゆく。
「おい! 貴様、神聖な服を汚しおって!」
村長はカッとなると、娘の襟(えり)に掴みかかった。
娘は返事をしなかった。
首はだらりとさがる。
体は岩場に投げ出されている。揺さぶっても頬を叩いても、ぴくりともしない。
「まさか!」
――死んだのか!?
嫌な予感が、男の脳裏をよぎった。
この奴婢は、従順だ。このように怒鳴り付ければ、必ず土下座する。そのように教育してきた。
それが、ピクリともせずまぶたを閉じている。

