織女(しょくじょ)たちが織った白い花嫁衣装を身にまとい、首に勾玉(まがたま)の首飾りをさげる。
薬指を黒曜石(こくようせき)でかるく切り、その血で唇に紅をさす。
血化粧を施した後、奴婢の娘は顔に布を被せられた。
顔を見せない生贄など、異例のことだ。
日焼けした肌に不相応な白い衣は、どう見ても贅沢三昧の村長の娘には見えない。苦しまぎれの策だ。
(こんな変装すぐにばれる。――そのとき、わたしはどうなるの?)
神の怒りを買えば、喰われることなく八つ裂きにされるかもしれない。
完全に無駄死にだ。
(でもお母さんは救える)
村のために死ぬ奴婢だ。
もしかしたら、母親は少しくらい同情してもらえるかもしれない。今より待遇が良くなる可能性だってある。
身支度(みじたく)を終えると、村の男達は釘を刺してきた。
「いいか。くれぐれも、逃げ出すなよ?――・・・おまえが逃げれば、母親の命はないからな!」
髪をぐいっとひっぱられる。娘は奥歯を噛んで耐えた。
「はい。逃げません・・・っ」
引っ張られた地肌が痛い。
きっと、血が滲(にじ)んでいる。
男たちは娘の返事に満足すると、娘を白い布を張り巡らせた神輿(みこし)に放り込む。