村の道を、裸足で駆ける。
騒ぎの中心――村長の屋敷の前に立った。
「お父さま! いやよ、生贄なんて、絶対いやっ!」
咲紀が、気が狂わんばかりに泣き叫んでいた。
(なにがあったの・・・?)
奴婢の娘は、視線を咲紀から、その屋敷へと向ける。そして息をのんだ。
「・・・・・・あれは!!」
屋根に、深々と白羽(しらは)の矢が刺さっていた。
蛇の花嫁に選ばれた印だ。
この村では、主祭神に大蛇(おろち)を祀っている。
蛇は龍神と同等とされ、恵みの雨をもたらしてくれるのだ。
大蛇は普段、巣穴で眠っている。しかし五年に一度、眠りから寝覚めると、空腹から生贄を求めるのだ。
生贄は蛇に嫁ぐ。
白の衣を着せられ、洞窟へ入ったら最後、二度と戻らない。

