獏の夢結び

夢夜はすでに重圧で倒れそうだった。
なんとか転ばずに、何度もからだに叩き込んだ振り付けを舞う。
見物する神仙たちは、それぞれ顔を見合わせた。
「なんだか、ぱっとしないなぁ」
「ほんとうに、譲葉さまのお孫さまなんだろうか」
「人間の血が濃いからな。当然ではないか?」
容赦ない批評。
突き刺さる痛いほどの視線。
夢夜は呼吸が乱れ、視界に霞がかかるようになってきた。
(まずい。このままでは、倒れる!)
獏はすかさず立ち上がろうとし、でも演奏をやめるわけにもいかず、冷や汗が噴き出す。
夢夜の足がもつれる。
――そのときだった。
譲葉の羽衣から、声がした。
『夢夜。だいじょうぶ。あなたはじょうずよ。だって、わたしの孫だもの』
「・・・おばあ、さま?」
蝶が舞うように。ふわりと、体が軽くなる。
細い腰を活かし、しなやかな曲線美をつくる。
信じられない事が起きた。神仙たちの視線が釘付けになる。
急激に変わった舞いは、あの懐かしい天女の姿を彷彿させる。
夢夜の髪がさらりとゆれる。
やがて、艶やかな黒髪は頭皮からしっとりとうねるように変化していった。
十五夜の月が、雲の隙間からあらわれるように。
髪が銀色へ染まったのだ。


いつの間にか、批評の視線は消えていた。
見とれているのだ。眼前の夢の中にいるような光景に、神仙たちは息をするのも忘れ、見とれている。
幽玄な琴の音。
羽化したばかりの蝶のような天女は、ただただ自らの舞いに陶酔する。
周りなど、気にならなかった。
ただ、舞を楽しむ。
やがて、演奏が終わった。
夢の時間の終わりだ。
「ゆめよ、さま・・・! 譲葉さまの、お孫さま!」
神仙たちは、おもわず彼女の名を叫んでいた。
息を切らしほほ笑む夢夜へ、大絶賛の拍手が巻き起こる。
天帝は御簾の奥から言う。
『見事であった。譲葉の孫、夢夜よ』
「はい・・・っ!」
夢夜は空を見上げ、あつい涙を流した。

ありがとう、おばあさま。
わたしは、あなたの孫。
今までも。
これから先も――・・・。
自慢の孫で、あり続ける。

祖母は、夢夜の誇り。そう思えることも幸福だった。
舞台を降りた夢夜は、舞台袖で黙々と琴の手入れにいそしむ獏にきらきらと笑顔を向けた。
「ど、どうでしたかっ!?」
「・・・見せるべきではなかったな」
「え」
思わぬ言葉。夢夜はぎょっとした。