それから数ヶ月が過ぎた。

季節は冬になろうとしている。

天界の宴はふたたび開かれることとなった。

前回、天帝より舞を披露するようにと命じられた夢夜は、骨折が治るなり舞いの稽古に明け暮れた。獏の琴にあわせて舞うのだ。
しかしどういうわけか、うまく踊れない。
譲葉と舞いながら会話していらい、妙に力が抜けたせいか。大勢の前で譲葉と比較される重圧故か。
慣れない衣装に足はもつれ、ころんでしまう。
(これでは笑いものね・・・)
以前は祖母と比較されるのが嫌だった。転ぶのはむしろ好都合だっただろう。
でも今は違う。
真剣に、祖母の名を汚すまいと必死だ。
大蛇から助けてくれた祖母の愛。それにこたえたい。
――でも、この出来では・・・。
「ふう」
夢夜はひとり、ため息をつく。
日が落ち、夜になっても、夢夜はひとり稽古に励んだ。


いっぽう、獏も琴と向かい合い、ため息をついていた。
(私も精進せねば)
夢夜のために新たに作った楽曲。お披露目は緊張する。
あっという間に時間は過ぎていき、気がつけば当日になっていた。



「夢夜。失敗してもおばあさまは怒らないわ。頑張ることに意味があるの」
娘の頬を包み込み、母――和葉は言い聞かせる。
夢夜はこくんとうなずいたものの、頬は引きつっていた。
(しゃれにならない出来は治らなかった。どうしよう・・・)
「お嬢様。お化粧がくずれますよ」
全快した狐牡丹がぐさりと釘を差した。夢夜は笑うことも泣くこともできず、けわしい顔しかできない。
隣に立つ獏は、もっとけわしい顔をしていた。
「おい。なんでお前のほうが緊張してんだよ」
火喰に杖で小突かれた獏は、琴を抱いたまま遠い目をしていた。
「緊張などしていない」
「してるだろう!? 手が震えてんぞ!」
火喰はすかさず突っ込む。彼の言う通り、獏はこれでもかと手が汗ばみ震えていた。
いま水の入った器をもたせたら面白いことになりそうだ。ひそかに仙人はほくそ笑む。
様々な思いを抱え、一行は会場へ向かった。


獏が琴の前に座る。舞台に立った夢夜と息を合わせる。
演奏が、はじまった。
夢夜のために弾く楽曲。彼女のために用意された舞台。