けっきょく、娘を村まで送り届けた獏は、その小柄な背中を見送った。
また、明日も来るだろうか。
(私はなにを考えている!?)
己の心の動きに激しく動揺した。
早朝。
娘は腰にウサギを数匹、吊るして山を降りた。仕掛けていた罠にかかっていたのだ。
奴婢は狩猟も請け負う。さすがに、狼(おおかみ)相手は厳しいが、獅子(しし)や鹿などなら弓を使って仕留められる。
娘は動物の体のつくりをすべて熟知していた。肉は料理に、毛皮は剥(は)いで処理したあと、防寒具や装飾に使用する。
狩ってきた獲物を、娘は躊躇(ちゅうちょ)せずさばいた。肉を断つ包丁から、返り血がとぶ。
頬を汚すそれを気に留めることなく、作業を続けた。この仕事は皆が嫌がる。それでも食料にありつける貴重な機会だ。
村人から食料をもらえずとも生き抜いてこられたのは、ひとえに娘が狩猟を請け負っていたからである。
額(ひたい)の汗をぬぐったときだった。
――突然、大気を切り裂くような悲鳴がとどろいた。
「悲鳴・・・? あの声はもしや、お嬢様・・・!?」
先日、父親にむち打たせ楽しんでいた咲紀が、この世の終わりのような悲鳴を上げている。
嫌な予感がした。
今、この離れた場所にいる自分に、なんの関係もないはず。
しかし、妙な胸騒ぎが消えない。
(これは、そう・・・。お父さんが死んだときと同じ・・・)
あのときも、こんな気持ちの悪い、足元から幸せが崩れ去っていくような、嫌な感覚がしたのを覚えている。
忘れられないもの。
絶望が近づいてくる気配だ。
包丁を投げ捨て、娘はとびだした。
また、明日も来るだろうか。
(私はなにを考えている!?)
己の心の動きに激しく動揺した。
早朝。
娘は腰にウサギを数匹、吊るして山を降りた。仕掛けていた罠にかかっていたのだ。
奴婢は狩猟も請け負う。さすがに、狼(おおかみ)相手は厳しいが、獅子(しし)や鹿などなら弓を使って仕留められる。
娘は動物の体のつくりをすべて熟知していた。肉は料理に、毛皮は剥(は)いで処理したあと、防寒具や装飾に使用する。
狩ってきた獲物を、娘は躊躇(ちゅうちょ)せずさばいた。肉を断つ包丁から、返り血がとぶ。
頬を汚すそれを気に留めることなく、作業を続けた。この仕事は皆が嫌がる。それでも食料にありつける貴重な機会だ。
村人から食料をもらえずとも生き抜いてこられたのは、ひとえに娘が狩猟を請け負っていたからである。
額(ひたい)の汗をぬぐったときだった。
――突然、大気を切り裂くような悲鳴がとどろいた。
「悲鳴・・・? あの声はもしや、お嬢様・・・!?」
先日、父親にむち打たせ楽しんでいた咲紀が、この世の終わりのような悲鳴を上げている。
嫌な予感がした。
今、この離れた場所にいる自分に、なんの関係もないはず。
しかし、妙な胸騒ぎが消えない。
(これは、そう・・・。お父さんが死んだときと同じ・・・)
あのときも、こんな気持ちの悪い、足元から幸せが崩れ去っていくような、嫌な感覚がしたのを覚えている。
忘れられないもの。
絶望が近づいてくる気配だ。
包丁を投げ捨て、娘はとびだした。

