花はそよとゆれ、美しい川へ誘(いざな)っているように見えた。
不釣り合いな巨体は花を踏みつけてしまう。蛇は身動ぎし、どうしたものかと迷っていると。
大河の向こう岸に、人影が見えた。
銀の髪の美しい女人だ。
譲葉だ。
彼女はこちらを見てほほえんでいる。

――ユズリハ?

蛇は許しを請うように言う。

『ワタシを、迎えに来てくれたのか』

譲葉はうなずいた。蛇は童のように歓喜した。

もう、迷うことはない。

蛇はざっと、大河に体を滑り込ませる。


迷うことなく、黄泉の川を渡っていった。