絡みつく大蛇の胴。
ぎりぎりと腕が締め上げられる。腕がへんな方向に曲がる。夢夜はうめき声を上げた。
肺は圧迫され、息もできない。酸素が足りず、顔は真っ赤に腫れ上がる。
がばり、と口を開け、大蛇は迫る。
そのときだった。
ふわりと。夢夜もろとも巻き込まれた衣が光った。
譲葉の羽衣だ。
「・・・っ?」
夢夜はかすむ視界でそれを見つめる。頭の中で、声がする。母に似ている声。でもちがう。
――これは・・・・・・。
『夢夜。もうすこし耐えて。わたしが時を稼ぐから』
生まれたときにはすでにいなかった人。
でも、本能で悟れる人。
「おばあ、さま・・・っ?」
かすれる声で、孫は祖母を呼んだ。
『夢夜。あなたは、わたしのたからもの。かけがえのない、わたしの大切な孫』
螢のような光は、洞窟中から集まった。
ふわりふわり。せつなく優しい光の帯を引きながら。
一か所に集まると、女の姿を形作る。
(わたしはこの人を・・・この声を知っている)
夢夜はぽろり、涙がこぼれた。
そしてそれは、蛇も同じだったようだ。
『ユズリハ?』
蛇は獲物を締め上げることすら忘れ、呆然と光る女人を見つめる。
何かを乞うているような顔をしていた。
寂しそうな、母親と再開を果たして喜んでいるような。
小さな子供のような、無邪気な顔。
蛇の注意が夢夜からそれた。
そのときだった。
光の背後からすさまじい突きが放たれた。
ぎらりと鈍く光る剣だ。
屈強な腕は、蛇の口の中へ手を突っ込むと、口内から頭を刺し貫いた。
ゴボッ!!
鮮血があふれる。血の雨は洞穴中にふりそそぐ。
光の女人の背後に立つ男――獏は、無言のまま剣を引き抜いた。

