深い恨みがこもった拳。譲葉、和葉、そして自分。大切な家族の幸せを奪った咲紀もその父親も。犯した罪を、憎しみを、夢夜は一つたりとて漏らさず記憶している。
夢夜はここに来て、目が醒める思いだった。
なにをビクビクしていたのだろう。わたしは。
従順なふりなど、必要なかったのだ。
怒りは力に。奮い立つ勇気へ変えるべきだったのだ。
ゆらり、立ち上がる夢夜は、もう以前の従順な奴婢ではない。
「わたしを犬なんて呼ばせない。だれにも、わたしを支配なんてさせないわ!」
夢夜の脳裏には、母や祖母、天界でできた友人たち。そして獏の笑顔があった。
〈夢夜〉。それは彼があたえてくれた名前。
わたしを人間だと認めてくれたあかし。それを、自ら否定するわけにはいかない!
「わたしはもう、あなたに負けることはない」
なんど地獄へ叩き落されそうと。
なんど咲紀が挑んでこようと。
この胸の中にくすぶる熱は、勇気は何者にも負けない。
(だれなの、これは・・・! 私は誰を相手にしているの?)
咲紀は頬を抑え、あんぐりと口を開けた。血の味のひろがる口内におびえが走る。譲葉の羽衣は肩からずり落ち、服は土埃で汚れていた。
完全に形勢は逆転していた。
「おばあさまの羽衣を、返しなさいっ!!」
夢夜は強固に迫る。一歩踏み出すだけで、咲紀はびくりと後ずさった。
「い、嫌よっ。これはお父様にもらったものなの。私のものよ!!」
夢夜の目がぎらりと光った。
譲葉の死後、村長が泣いていた和葉からむりやり取り上げたに違いない。幼い頃から咲紀は身につけ、自慢していたそれが、まさか譲葉の羽衣だったとは、露ほども思わなかった。
夢夜は再度、静かに言う。
「わたしの大切なおばあさまの形見よ。返しなさい」
「ひっ! い、いやっ。絶対いやよっ!」
聞き分けのない咲紀にしびれを切らし、夢夜は羽衣をひったくる。
ようやく孫のもとへ戻った形見。汚れてしまったそれを、夢夜は痛みを堪えるように見つめる。
その時だった。
突如、巨大な蛇の胴が、ぐるりと夢夜に巻きつき、締め上げた。
馬車を引いていた馬を平らげた大蛇が、夢夜へ牙を剥いたのだ。
『譲葉の血肉を、再び得られようとは!』
夢夜はここに来て、目が醒める思いだった。
なにをビクビクしていたのだろう。わたしは。
従順なふりなど、必要なかったのだ。
怒りは力に。奮い立つ勇気へ変えるべきだったのだ。
ゆらり、立ち上がる夢夜は、もう以前の従順な奴婢ではない。
「わたしを犬なんて呼ばせない。だれにも、わたしを支配なんてさせないわ!」
夢夜の脳裏には、母や祖母、天界でできた友人たち。そして獏の笑顔があった。
〈夢夜〉。それは彼があたえてくれた名前。
わたしを人間だと認めてくれたあかし。それを、自ら否定するわけにはいかない!
「わたしはもう、あなたに負けることはない」
なんど地獄へ叩き落されそうと。
なんど咲紀が挑んでこようと。
この胸の中にくすぶる熱は、勇気は何者にも負けない。
(だれなの、これは・・・! 私は誰を相手にしているの?)
咲紀は頬を抑え、あんぐりと口を開けた。血の味のひろがる口内におびえが走る。譲葉の羽衣は肩からずり落ち、服は土埃で汚れていた。
完全に形勢は逆転していた。
「おばあさまの羽衣を、返しなさいっ!!」
夢夜は強固に迫る。一歩踏み出すだけで、咲紀はびくりと後ずさった。
「い、嫌よっ。これはお父様にもらったものなの。私のものよ!!」
夢夜の目がぎらりと光った。
譲葉の死後、村長が泣いていた和葉からむりやり取り上げたに違いない。幼い頃から咲紀は身につけ、自慢していたそれが、まさか譲葉の羽衣だったとは、露ほども思わなかった。
夢夜は再度、静かに言う。
「わたしの大切なおばあさまの形見よ。返しなさい」
「ひっ! い、いやっ。絶対いやよっ!」
聞き分けのない咲紀にしびれを切らし、夢夜は羽衣をひったくる。
ようやく孫のもとへ戻った形見。汚れてしまったそれを、夢夜は痛みを堪えるように見つめる。
その時だった。
突如、巨大な蛇の胴が、ぐるりと夢夜に巻きつき、締め上げた。
馬車を引いていた馬を平らげた大蛇が、夢夜へ牙を剥いたのだ。
『譲葉の血肉を、再び得られようとは!』

