夢夜はふるふると体が震えた。
あの忘れられない痛み。躾としょうして、なんども味合わされた苦痛がよみがえる。
「咲紀・・・」
「様はどうしたの、様をつけなさい!!」
ふたたび鞭が頬をかすめた。皮膚が裂け、たらりと血がにじむ。
(咲紀がわたしをここまで連れてこさせたのね。――わたしを殺すために)
そうだとすればすべて合点がいく。
咲紀ほど、自分を憎んでいる人間はいないからだ。
幼い頃から父親に夢夜の母――和葉への憎しみを刷り込まれて育った咲紀。
父親をまね、豪然と暴力を振るってきた。
咲紀にとって、夢夜は最初から〈人間〉とは認知されておらず、〈奴婢〉という生き物だったのだ。
見下して当然の存在。
蔑まれて当然の人間。
生かすも殺すも自分の自由。
まるで神にでもなったかのように、夢夜の命は自分の手中にあると信じて疑わない。
夢夜は唇を噛む。おおかた、自分より夢夜が幸せになっている事実が気に入らないのだろう。これほどまで従姉妹から恨まれている理由は、あっさりと理解できた。
夢夜が自分より少しでも上だと、咲紀は自分の尊厳を否定された気がするのだ。
咲紀の視野はとても狭い。
そのやり方しか知らない。夢夜を見下すことでしか、自分の価値を確かめられない、哀れな娘。
夢夜は震える手を叱咤するため、砂を握る。
瞬間、ぬるりとした感触にぎょっとした。
あたり一面、血溜まりだらけだ。洞穴のいたるところに死体が無惨に食い散らかされている。
「もしかしてこれは、村の人達のっ!?」
「そうよ。みぃんな、大蛇さまが喰ったわ。残るはあなたと私だけ」
咲紀は何がおかしいのか、笑いはじめた。
高らかに、その声は洞穴中を震わせる。夢夜は耳につく不気味なそれを、奥歯を噛んでぐっと耐えた。
咲紀は笑いながら言う。