「ええっと。どこかでお会いしたような・・・?」
見覚えのある白い毛。長く垂れ下がった耳。
女は顔を離すと、にんまりと笑った。
「やですよぉ。お忘れですか? 主上のそばで、あなた達の仲介役をしたウサギですよ」
ウサギさん・・・?
夢夜は起き上がり、首をひねった。
「そのウサギさんが、なぜここに? それにこの夢幻でよく存在を保てますね」
「あたしは主上の伝令役でもありますからね。どこへでも跳ね回れるよう、通行手形持ってるんですよ。本日の要件は、獏さまからの伝言です。土砂降りの雨があちらで降り出したそうで。迎えに来てほしいと」
「あめ? 天上界でもふるのですか?」
「もちろん。雨は万物にかかせぬものですから。お嬢様もごいっしょされますか?」
夢夜はしばし悩んだ。知らない人にはついていくなと言われている。でも、彼女の身元は確かだし、天帝の側仕えが獏の伝言に来たのなら、信じてもいいだろう。
ささ、とウサギは背中を押す。夢夜は彼女の勢いに圧倒されながら、馬車に押し込まれた。