イサギが変人扱いされている頃。

レムルス帝国ではウェイス皇子の指揮の元、着々と侵略の準備が進められていた。

ウェイスが執務室で人員の配置について考えているところ扉がノックされた。

「ウェイス様、錬金術師課のガリウス様がお目通りを願いたいと」

騎士からその名前を聞いて、ウェイスはうんざりした気持ちになる。

優秀な駒になるはずの錬金術師を勝手に解雇した挙句、イサギが行うはずだった代わりの事業や代替案の提出のできない無能な男。加えて先日のマジックバッグ破裂事件でウェイスの中でのガリウスの評価は最底辺となっている。

もはや役立たずの烙印を押してしまっているのだが、先日の事件から一切顔を見せていなかったというのに急に顔を見せようというのが気になった。

「……通せ」

「かしこまりました」

ウェイスが短く答えると、騎士が扉を開けてガリウスが入ってきた。

「ウェイス様、先日のマジックバッグの納品については私の管理不足による失態です。誠に申し訳ございません」

「もういいい。必要となるマジックバッグは俺自身の手で集めることができたのだからな。で、そんなありきたりな謝罪をするために俺の前に顔を出したわけではあるまいな?」

「もちろんでございます」

案にそれだけの要件できたのなら即座に斬り捨ててやるくらいの脅しをかけたのだが、ガリウスはそれにまったく動じる様子がない。

「それでは用件を聞こうではないか」

今までとは違った泰然としたガリウスの態度を見て、ウェイスはとりあえず話くらいは聞いてやる気持ちになった。

「はい、本日は獣王国侵略のために開発しました軍用魔道具の説明に参りました」

「ほお、軍用魔道具か……概要を説明しろ」

促すと、ガリウスは開発した軍用魔道具を取り出して説明してみせた。

「――というものになります」

またロクでもない提案をしようものなら、侵略の前に左遷してやろうと思ったが、ガリウスの提出してきた軍事魔道具の詳細を耳にしてウェイスは考えを変えた。

この男は無能ではあったが、軍用魔道具の開発という一点に当たっては優秀だった。

「やるではないか! これさえあれば獣人だろうと恐れるに足りない! さすがは帝国が誇る宮廷錬金術師を束ねているだけあって軍用魔道具の製作のお手の物というわけか!」

「お褒めに預かり恐縮です。つきましてはこちらを使用するに当たってお願いがございます」

「これを大量に作るための資金の提供だな?」

「はい」

「いいだろう。金は出しやるから故に、今すぐこの軍用魔道具を大量生産しろ」

「ありがとうございます」

「それと軍用魔道具の運用した基本戦術について記した書類を提出するように」

「かしこまりました。それと恐れながらもう一つお願いがあります」

「なんだ?」

「今回の侵略に私と宮廷錬金術師数名を加えていただきたいです」

「いいだろう。これは貴様たちが開発した軍用魔道具だ。どのみち管理のために同行してもらおうと思っていたし問題はない。しかし、不思議なものだな。宮廷錬金術師はこういった戦争に出張るのを嫌っていたと記憶していたが……」

宮廷錬金術師たちは自分たちの価値を知っているが故に、危険の多い外には滅多なことで出たがらない。それなのに今回は進んで侵略に加えろというのがウェイスは不思議に思った。

「開発した軍用魔道具がどれくらいの殺戮を振り撒くのかこの目で見てみたいのです」

「……悪趣味だな」

そんな呟きを漏らすウェイスだったが、彼自身もこの軍用魔道具の振り撒くであろう死に興味を示しているのだった。