「わわっ! 地震ですか!?」

「みてえだな!」

ちょっとやそっとの地震では崩れないように作っているが、いくら頑強なプラミノスハウスでも地面が崩れてしまえば崩落してしまうことになる。

万が一を考えると、プラミノスハウスにいるよりも外にいた方が安全だ。

「外に出ましょう!」

「ああ!」

決断すると、俺たちは他に作業をしている赤牛族たちにも声をかけて速やかにプラミノスハウスを出た。

「イサギ様、ご無事ですか?」

外に出ると、別のプラミノスハウスで視察をしていたメルシアが血相を変えて駆け寄ってきた。

後ろにはメルシア以外の赤牛族たちもいる。

彼女も俺たちと同じ判断をして、外に連れ出してくれたようだ。さすがだ。

「俺は大丈夫だよ。メルシアは?」

「イサギ様がご無事でなによりです。私の方は問題ございません」

ルシアもどこも怪我をしていないようで安心だ。

「長い揺れですね?」

先程からジーッと外で待機しているが地面の揺れが収まる気配がない。

というよりどうも揺れが強くなっている気がする。

「なんか普通の地震とは違わねえか?」

そう言われてみると確かに揺れが地震の時とは違って、妙に不規則だということに気付いた。

横に揺れたと思ったらせり上がるように縦に揺れたりと変だ。気持ちが悪い。

「イサギ様、なにか地中から気配を感じます」

メルシアの言葉を聞いた瞬間、俺はすぐに錬金術を発動。

地中に魔力を巡らせて気配を探る。

すると、巨大な長細い生き物たちが真下からこの場へとすごい勢いで近づいてきていることに気付いた。

「急いでこの場から離れてください!」

叫んだ瞬間に俺たちの真下にある地面が割れた。

メルシアが即座に俺を抱えて跳躍し、キーガスをはじめとする赤牛族たちは驚異的な反射速度と身体能力で決壊する地面から逃れる。

着地したメルシアに下ろしてもらい視線を上げると、地面から三体ものワームが飛び出した。

砂漠や荒野や鉱山などの地中に棲息し、獲物を地面から襲いかかる魔物。

弾力質な長い身体は全長十メートルを越えている。先端部分には大きな丸い口がついており、奥にはびっしりと小さな歯が何列にもなって生えている。ちょっとグロい。

「サンドワームだ! お前ら武器を持って戦いやがれ!」

キーガスが声を上げると、赤牛族の戦士たちが次々と赤いオーラを纏わせてサンドワームに飛びかかった。

赤牛族の振るった鍬がサンドワームの腹部に強く打ち付けられる。

弾力質な体をしているワーム種は打撃系の攻撃に対して強いのだが、ここにいる戦士は全員が獣人であり屈強な身体強化を使える戦士だ。

いくら打撃に耐性があろうと赤牛族の身体強化による一撃を体のあちこちに受けては耐えられるはずもなく、あっという間に二体が地面に倒れ伏した。

えげつない。

「族長、一体がそっちにいきました!」

赤牛族たちの活躍により二体のサンドワームがなすすべなく地面に沈むが、最後の一体がキーガスの方に突進してくる。

十メートルを越える巨体の突進にキーガスは怖気づく様子もなく、冷静にサンドワームに合わせてトマホークを振るった。

キーガスの振るったトマホークはサンドワームの頭部を斬り込んだ。と思ったら、そのまま胴体から尻の方まで綺麗に両断した。

二つに分かれたサンドワームの体がドサリと砂漠の上に落ちる。

「ったく、こっちに流すなよ。カッフェの農園が潰れちまうだろうが」

身体強化すら使わずに一撃で屠ることができるのだからさすがだ。

キーガスの一撃によって赤牛族たちが湧く中、地中からまたしても振動が響いた。

「またしてもサンドワームです!」

地中から十体のサンドワームが出てくる。

そのうちの五体はその場に留まって攻撃を仕掛けてくるが、残りの五体は地中へと潜行した。

襲いかかってくると思って構えるが、いつまで経っても攻撃を仕掛けてくる様子はない。

「おい、五体はどこにいった?」

「……集落の方に行ったのではないでしょうか?」

「なにい? 目の前の餌を襲うしかねえサンドワームだぞ!? あり得ねえだろ?」

メルシアの懸念に対し、キーガスが信じられないとばかりの声を上げる。

「錬金術で探査してみましたが、間違いなく集落に向かっています」

「んな!? くそ、俺は集落の方に行ってくる! 悪いがここは任せた!」

返答をする間もなく、キーガスは数名の赤牛族の戦士を連れていくと集落の方へ走っていった。

「任せたって言われても俺は錬金術師であって戦士じゃないんだけど……」

レギナとティーゼがいれば、サクサクと倒してくれるのであるが、彼女たちは彩鳥族の集落で農業に励んでいる。生憎とこの場での戦力としては期待できないだろう。

「赤牛族が健闘していますし、私たちは傍観しておきますか?」

「いや、頼まれちゃったし俺たちも戦おう」

メルシアの提案に乗りたい気持ちは山々だけど、目の前で暴れている魔物を無視するのは心が痛む。

それに何よりせっかく皆と一緒に農園をめちゃくちゃにされるかもしれないと思うと、居ても立っても居られなかった。

そんなわけで俺とメルシアもサンドワームとの戦いに加わることにした。





サンドワームが巨体を揺らしてメルシアに突進を繰り出す。

メルシアはサンドワームの突進を横ステップで回避。それと同時にガラ空きになっているサンドワームの横っ腹に拳を叩き込んだ。

ズンッと腹に響くような低い音が鳴り、サンドワームの体が一瞬持ち上がった。

並大抵の魔物であれば、今の一撃で骨や内臓をやられてノックアウトとなるが、サンドワームの体はぶよぶよとした弾力質の分厚い皮に覆われており、一撃で沈むようなことはなかった。

衝撃を受けて内部にダメージを受けているようだが、すぐにズルズルと体を動かして地中に潜っていく。

「動きは鈍いのですが、無駄に打たれ強くて面倒ですね」

レギナのような大剣や、キーガスのようなトマホークを持っていれば、分厚い皮ごと切断して倒すことができるが、己の肉体を主体とするメルシアではそうはいかない。

いくらか短剣や投げナイフなどの暗器も使えるっぽいけど、それらの武器ではサンドワームの巨体を切り裂くのは難しいだろう。

などと冷静に分析していると、今度は俺の傍にある地中から気配があった。

「イサギ様!」

「大丈夫だよ」

錬金術の探査で地中にいるサンドワームの気配を正確に把握し、地中から顔を出すタイミングで右手をかざした。

「風刃【ウインドスラッシュ】」

地中からサンドワームが顔を出した瞬間に、風魔法が発動。

右腕に収束していた風の刃が発射され、サンドワームの頭部を切断した。

サンドワームの一番の長所は普通の人間が知覚できない地中に潜れること。

しかし、錬金術で地中に魔力を浸透させることのできる俺からすれば、地中に潜っているサンドワームの姿は丸見えも同然だ。

地中に潜ったサンドワームを感知し続けて、地面から出てくるタイミングで魔法を放つだけだ。

両サイドにある穴から同時に出てくるサンドワームに合わせて風魔法を発動すると、二体のサンドワームが頭を落とすことになった。

地上を高速で動き回る魔物の方が魔法を当てるのが難しいが、サンドワームの場合は無警戒で地面から出てきてくれるので当てるのが簡単だな。

「さすがはイサギ様ですね」

「あはは、サンドワームとの相性がいいだけだよ」

メルシアが感嘆の視線を向けてくるが、これはサンドワームとの相性がいいだけで決して俺のセンスがいいわけじゃない。見えないはずの相手が見えているとなれば、倒すことができるのは当然だった。

「メルシア、後ろの穴から出てくるよ」

「ここですね!」

地中から這い出ようとしているサンドワームの気配を教えると、メルシアは華麗に跳躍し、サンドワームが顔を出したタイミングで強烈な踵落としをお見舞いした。

分厚い皮に阻まれて一撃で倒すのは難しいだろう。そう思って風魔法を準備していたのだが、踵落としを食らったサンドワームの頭部が派手に弾けた。

「あれ? 一撃だったね?」

「頭部は弾力性が低く、打撃に対する耐性は低いようです」

胴体に比べると、弾力質な皮が薄いようだ。

「一撃で倒せるのであれば処理は簡単です」

サンドワームの弱点を看破したメルシアが次々とワームへと飛びかかっていく。

頭部には大きな口があるので攻撃を仕掛けるにはリスクが高いのだが、メルシアにはそんなものは関係ないらしい。サンドワームの噛みつきをかいくぐり、力強い拳で頭部を撃ち抜いていく。

サンドワームの数が大幅に減っていることに安堵するものの、またしても地中から無数のサンドワームが砂を撒き散らして這い出てきた。

「また増えた」

「先ほどからキリがありませんね」

キーガスにここを任されてからサンドワームを二十体以上は倒しているが、倒しても倒しても地中から増援がやってくるのだ。

しかも地下にはまだまだサンドワームが控えている模様。一体、この付近にはどれほどの数のサンドワームがいるのやら。

「メルシア、ちょっとサンドワームの注意を引いてくれる?」

「かしこまりました」

チマチマと倒していてはキリがない。地上に出てきたサンドワームの相手はメルシアと赤牛族に任せ、俺は地下にいるサンドワームを一掃することにした。

地面に魔力を流し込んでいく。魔力の波がぶつかり合うことで地中を調査。

地下に潜むサンドワームの数とそれぞれの位置を把握すると、俺は錬金術を発動。

地中の土を操作し、サンドワームへと殺到させる。

ただ土が迫りくるだけではサンドワームには分厚い皮であるので痛くも痒くもないだろうが、周囲の土は錬金術による魔力圧縮による硬化されている。逃げ場のない場所で三百六十度から硬質な土で圧迫されれば、たとえサンドワームでも無事では済まないだろう。

サンドワームたちが動き回って抵抗してみせるが、数秒後にはブツンッと押し潰される手応えがあった。

手で芋虫を握りつぶしたわけじゃないのに、そんな感触がダイレクトに伝わってくるようだった。

「イサギ様、今のは……?」

地中の土を派手に操作したことでメルシアにも振動は伝わっていたようだ。サンドワームの相手をしながら驚いたように振り返る。

「錬金術で地下の土を操作してサンドワームを圧殺したんだ」

「な、なるほど」

「これで地下にいるサンドワームは殲滅できたよ。後は地上にいる奴等を倒せば――」

上々な戦果に満足していると地上に残っていたサンドワームたちが次々と地中に潜っていく。

しばらく様子を見てみるも俺たちに攻撃を仕掛ける様子はない。

「サンドワームが退いていった?」

「どうやらそうみたい」

魔力を流して地中の気配を探ってみるも、サンドワームは遥か東の方角へと遠ざかっていた。

さすがになりふり構わずに退却されると、先ほどの錬金術で圧殺することも難しい。

とりあえず、この場はサンドワームを撃退できたことを喜ぶことにした。