レギナ、ティーゼ、メルシアに魔物を蹴散らしてもらいながら進んでいく。

「イサギさん、水源はどうでしょうか? 見つかりましたか?」

体感として二時間くらい経過した頃だろうか。ティーゼが尋ねてきた。

「……この辺りにはないですね。全体を調査するにはもう少し奥に進む必要あります」

「私が自信を持って案内できるのはこの辺りまでとなります」

なるほど。それで俺に尋ねてきたのか。

今まではティーゼの案内で迅速に魔物が少ないルートをたどってきたが、ここから先はそうはいかないということだ。

「大丈夫よ。そのためにあたしたちがいるんだもの」

レギナの言葉に同意するように俺とメルシアは頷く。

元よりティーゼの案内がなくてもやるつもりだったんだ。今更ここで中断するつもりはなかった。

彩鳥族の生活を向上させるために、できるだけ最上の選択をしたいからね。

俺たちの覚悟を聞いて、ティーゼは嬉しそうに笑った。

「わかりました。では、行きましょう」

俺たちは水源を探すために、さらに奥へと進んでいく。

洞窟の内部は相変わらず真っ暗で道はいくつも枝分かれしている。

灯りで周囲を照らしてみるが、ほとんど同じ光景だ。少し視線の向きを変えただけでどこからやってきたかわからなくなってくる。

こんな状態でもしっかりと見える獣人がいるからこそ迷いなく進めるわけで、人間族だけだと間違いなく迷子だろうな。

「あっ」

なんて思いながら進んでいると、錬金術による探査に引っかかるものがあった。

獣人族の三人は(かす)かな呟きすら見逃さない。耳をピクリと反応させて、三人が一斉にこちらを向く。

「……もしかして、水源を見つけたの?」

「ごめん。水源を見つけたわけじゃないんだ」

「なんだぁ」

苦笑しながら答えると、期待を露わにしていたレギナが肩を落とした。

ややこしい反応をしてしまって本当に申し訳ない。

「イサギさんは何を見つけられたのです?」

「マナタイトの鉱脈を発見したんです」

「えっ! マナタイト!? それ本当!?」

「ええ」

レギナを落ち着かせると、俺は錬金術を使用した。

土壁に魔力が流れ、ひとりでに砕けていく。

土塊が出てくる中に混じってゴロゴロと銀色に輝くマナタイトの塊が出てきた。

「本物のマナタイトだわ!」

マナタイトを渡してやると、レギナの表情が驚愕へと変わった。

「マナタイトの鉱脈があるだけで、大きな一つの産業になるわ!」

マナタイトとは魔力を含んでいる鉱石だ。武器や防具などの素材に使い、魔力を込めて馴染ませることで切れ味が鋭くなったり、防御力が増加したりといった効果からかなり稀少な素材であり、その鉱脈を発見したとなれば、恩恵に預かる国や街は大いに潤うことになる。

「とはいっても、ここにある鉱脈は大きなものじゃないから保障はできないよ。仮にそれほど大きな鉱脈があったとしても、食料がなければ意味がない」

大きな鉱脈があれば採掘をするために人が集まり、人が住むための建物ができ、物を売買するために商人が集まる。といった具合に発展していくものだが、これだけ過酷な環境な上に慢性的な食料不足とくれば人が集まるはずもなかった。何をするにしろ生活の基盤となる農業を整えるのが大事だ。

「マナタイトの鉱脈を前にしてスルーするのは惜しいけど、イサギの言う通りね。今は水源の調査を優先させましょう」

惜しそうな顔をしていたレギナだが、すぐに気持ちを切り替えたようでスッと前を歩き出した。

さすがは第一王女。目の前で優先させるべきものが何かわかっているようだ。

そんなレギナの後ろ姿を、メルシアは何故か白い目で見ている。

「レギナ様、ポケットに入れたマナタイトはイサギ様のものなので返却をお願いします」

「ああっ!」

あまりにも自然な動きでマナタイトをポケットにしまったので、何も違和感を抱いてなかった。

よく考えるまでもなく、そのマナタイトは俺のじゃないか。

「獣王国の資源はすべてあたしのもの――なんて冗談よ! ちゃんと返すつもりだったからそんな目はしないでよ!」

三人で白い目を向けると、レギナは慌ててポケットにしまったマナタイトを返してくれた。

なんてやり取りをしながら進んでいくと、三叉路にぶつかった。

どちらの通路も先は長いようで灯りを照らしてみても奥の様子はわからない。

「どっちに行けばいいかしら?」

「……判断しかねます」

ティーゼとレギナの視力を持ってしても奥まで見通すことはできないようだ。

「メルシアは何かわかる?」

何げなく尋ねると、彼女はスタスタと歩いて拾った小石を放り投げた。

コーンコーンとそれぞれの通路で石が反響する音が響き渡る。

「……右の通路は行き止まりで、左が先に進める通路かと」

「どうしてわかったんだい?」

「音の反響具合でおおよその構造がわかります」

メルシアによると、音のぶつかり具合によってどれだけ空間の広さがあるのか、どこに障害物があるのか大まかにわかるらしい。

試しに自分で石を放り投げて音を聞いてみるが全くわからない。

「レギナはできる?」

「あたしはこういうのは苦手だから」

尋ねてみると、レギナはスッと視線を逸らした。

「種族特性を含めてメルシアさんの耳が特別に良いというのもありますが、真に賞賛するべき部分は実際に音をキャッチして地形を把握する技能と経験でしょうか」

「恐縮です」

ティーゼに賞賛されて、メルシアがやや照れくさそうな顔になる。

どうやら獣人だからといってすべての人ができるわけではないようだ。

メルシアは帝城では夜の警備もしていたと聞く。その経験もあってメルシアは周囲の気配を探るのが得意なのだろうな。

「だとすると、メルシアを先頭にする方がいいわね」

「お任せください」

先頭と最後尾を入れ替えると、俺たちはメルシアの指し示してくれた左の通路へ進むことに。

コツコツと進んでいくと、メルシアの言う通り行き止まりの気配はなかった。

こんな風にメルシアが索敵してくれるのであれば、最小限のリスクで潜っていけそうだなと考えていると、前を歩いているメルシアの足がピクリと止まった。

「この先の天井に小さな気配がたくさんあります」

「恐らくスパイダー種の魔物が待ち伏せをしているかと思われます」

スパイダー種の魔物が得意とするのは天井や壁に張り付いての奇襲だ。いくら戦闘力の高い三人がいても苦戦は免れないだろう。

なにせ相手は毒を持っている可能性が高く、ちょっとした負傷が命取りになりかねない。

「迂回はできない?」

「道をまた戻って探すという案もありますが、大きく時間がかかる上に迂回路がある保証もありません」

逆を言えば、この先が確実に下に続くルートかも保証はないのだが、そこを考えるとキリがないだろう。

「ちょっとアイテムを使ってみてもいいかな? その効果次第では楽に倒して進むことができるかもしれないんだ。失敗したら正面からの戦闘になるかもだけど……」

「いいわ。迂回を探すのは性に合わないと思っていたしこの面子なら何とかなるわよ」

提案してみると、レギナだけでなくティーゼとメルシアも同意するように頷いてくれた。

「ありがとう」

俺は礼を告げると、メルシアの真後ろに移動して魔物のいるところまで案内してもらう。

歩いて進んでいくと、天井には複眼による赤い光が無数に見えていた。

光で照らしてみると体長六十センチほどの土色の蜘蛛が、びっしりと天井に張り付いていた。