一週間後。

俺、メルシア、ネーアをはじめとする従業員たちは朝の仕事を終えると農園カフェに集まっていた。

ダリオとシーレが作ってくれた農園カフェの料理を試食するためである。

「店内が明るくて綺麗ですね」

「うん、採光窓を設置したのは正解だったみたい」

店内には俺の作ったイスやテーブルが並んでおり、屋根に設置された採光窓から光が差し込んでいた。ナチュラルな木目調の壁の効果もあり、とても明るい雰囲気だ。

端には観葉植物が設置されており、内装もしっかりと整っている。

どこからどう見てもオシャレなカフェだ。

「おいら、プロの料理人の料理を食べるのは初めてなんだなー」

「わたくしたちの野菜がどんな風になるのでしょう?」

ダリオとシーレは高級レストランで働いていた料理人だけにロドス、ノーラたちの期待も高い。

プロの料理人なんてものは王族や貴族といった特権階級の者が囲い込んだり、多くの人が集まる都市部に集まるので辺境にはほとんどいない。皆がワクワクするのも当然だ。

「どんな料理が出てくるのか楽しみなのです!」

「――って、コニアさん、いつの間にやってきたんですか!? 今日定期売買の日じゃないですよね!?」

しれっと俺たちの隣に座っているコニアを見て、俺は目を()いた。

「試食会があると聞いて、食べにやってきたのです!」

どうやら業務とは関係なく、料理を食べにきたらしい。

ワンダフル商会の数少ない幹部って聞いたけど、意外と暇なのかもしれない。

そもそもダリオとシーレを紹介してくれたのはコニアだ。まあ、試食会に混ざろうと問題はない。

獣王国の各地を渡り歩いている彼女の意見は参考になるだろう。

わいわいと雑談しながら大人しく席で待っていると、コック服を身に纏ったダリオとシーレがワゴンを押してやってきた。

「み、皆さま、本日はお忙しい中お集まりいただきありがとうございます!」

「本日試食していただく料理は、農園カフェで提供する予定のものでございます。是非とも忌憚ない意見をいただければと思います」

ガチガチに緊張した様子のダリオとは正反対に、シーレはかなり落ち着いている。

仕事モードなのか口調は崩さず非常に丁寧なものだ。

性格的な問題もあるが、単純に人前に出るのに慣れているのだろうな。

口上が終わると、ダリオがゆっくりとワゴンを押してこちらにやってきて料理を配膳してくれた。

「ロールキャベツのトマトソース煮、グラタン、オムレツ、春野菜たっぷりのパスタセットとなります」

俺の前にはメインとしてロールキャベツのトマトソース煮があり、他にはサラダ、コンソメスープ、パン、野菜ジュースといった豪華なラインナップになっていた。

メルシアにはグラタン、コニアはオムレツ、ネーアはパスタがメインとして君臨しており、俺と同じようにサラダなどがすべてに付いていた。

「どれもすごく美味しそうなのです!」

「さすがはプロの料理人。盛り付けがとても立体的で彩りも鮮やかです」

豪華さにコニアが喜び、メルシアは見た目の華やかに感心の声を漏らした。

俺たちが同じように料理を作ったとしても、こんなに綺麗な見た目にはならないだろうな。

「ねえ、これってもしかしてランチ!?」

「はい。こちらの四種類は農園カフェで提供するランチになります」

ネーアが尋ねると、ダリオがこくりと頷いた。

「では、食べましょうか」

これだけ美味しそうな料理を前にいつまでもお預けは酷というものだ。

皆、午前中の仕事を終えてお腹がペコペコだったからか反対されるわけもなく、俺たちは一斉に料理に手をつけた。

「こちらのグラタン、ジャガイモやブロッコリー、ニンジンなどの野菜がゴロゴロと入っていて美味しいですね」

「こっちのオムレツには小さく刻まれたタマネギ、ニンジン、キノコ、ひき肉だけじゃなく、チーズまで入っていて相性もバッチリなのです!」

「にゃー! パスタも美味しい! 大きなアスパラガスとベーコンがたまらないよ!」

メルシア、コニア、ネーアがそれぞれのメイン料理を食べて声をあげた。

そんな三人を尻目に、俺はロールキャベツをナイフで切り分ける。

キャベツを割ると、じんわりとしたキャベツと肉の旨みの汁がにじみ出た。

それをトマトソースに絡め、そのまま口へと運んだ。

キャベツの甘みと旨みが口の中でとろける。

「うん、ロールキャベツもとても美味しい! 特にキャベツの甘みと旨みが最高だ!」

じっくりと煮込まれたお陰でキャベツの甘みと旨みが増しているのだろう。

キャベツの層を突き破ると、中にあるジューシーな肉の塊が爆発。

丁寧に塩、胡椒、ハーブで味付けされたお肉はとてもジューシーだが、キャベツがしっかりとそれを受け止めている。

さらに全体の味を昇華させているのがトマトソースだ。程よい酸味がキャベツと肉の旨みをくどくさせることなく、口の中をスッキリとさせてくれる。

「ねえねえ、イサギさん。そっちのロールキャベツも分けてよ!」

「私も食べたいのです!」

「では、それぞれ交換しましょうか!」

せっかく四種類もあるのだから、全部味合わないと勿体ない。

俺たちはそれぞれのメイン料理を切り分けて、お互いに交換することにした。

メルシアから分けてもらったグラタンには、鶏肉、ナス、ジャガイモ、ブロッコリーといった大農園の野菜がたくさん入っていた。

食べてみると、ごろりとした野菜が口の中に入ってきて美味しい。

竃でじっくりと火を通しているからか野菜の甘みが強く、濃厚なチーズと絡み合う。

コニアのオムレツは食べてみると、中に小さく刻まれた野菜がたくさん入っている。

しかし、小さなサイズとは裏腹に野菜の存在感はとても大きい。旨みもさることながらカリッとした食感が面白い。

ネーアが分けてくれたパスタはアスパラガス、タマネギ、ベーコン、キャベツといった野菜が入っていた。

麺をすすると、野菜の旨みがギュッと詰まったソースと絡み合っていて美味しい。

茹でられた大きなアスパラガスはほろ苦いながらも甘さもしっかりとあって、塩っけの効いたベーコンととても合っている。

この組み合わせはパスタの隠れたメインと言っても過言じゃないほどだった。

「こんなに美味しい料理は初めてなんだなー!」

「困りましたね。これでは毎日通ってしまいそうです」

ロドス、ノーラ、といった他の従業員からも大好評だ。

これにはダリオとシーレも嬉しそうにしている。

「めちゃくちゃ美味えんだが、肝心の値段はどれくらいなんだ?」

「グラタンセットが銅貨六枚で、残りの三種類は銅貨五枚の予定です」

「安いな、おい!」

シーレの返答にリカルドが驚きの声をあげる。

これだけ豪華なランチだと銅貨八枚くらいはいくかと思ったが、ダリオとシーレは良心的な値段に落とし込んでくれたようだ。

「それで収支はとれているのです?」

厳しい問いかけをしたのはコニアだ。

普段はほんわかとした表情からは一転して、真面目な表情になっていた。

ワンダフル商会が手を貸している以上、甘い経営方針は許さないといった雰囲気が漂っている。

「大農園から直接仕入れることができるお陰で原価率がかなり低く、利益率が高いので問題はないかと。細かい数字を記した資料も用意しております」

そう言ってシーレが資料を渡してくれるが、飲食店の経営なんかしたことがない俺にとってはサッパリだ。

「村人たちの収入や流通している貨幣の量を考えると、これくらいが妥当なのです。よく調べているのです」

ふむ、商人であるコニアがそう言うのであれば、大きな問題はないのだろうな。

書類に目を通しているメルシアも特に口を挟む様子はないみたいだし。

「イサギさん、料理はいかがでしたか?」

「私たちの料理は農園カフェに相応しいものでしたでしょうか?」

ダリオとシーレが不安そうにしながら尋ねてくる。

恐らく、四種類のランチの全体的な評価を求めているのだろう。

「どれも美味しかったです! 大農園の野菜をたっぷりと使い、それぞれの良さを十分に生かしきっていました。ぜひ、これらを農園カフェの定番ランチに加えて、営業を始めてもらえればと思います」

「「ありがとうございます」」

そう評価を述べると、ダリオとシーレが嬉しそうに笑って頭を下げた。

二人が提供してくれた料理は、どれも素材の良さを生かそうという熱意を感じることができた。

その熱い心と食材に関する尊敬がある限り、二人の開発した料理が農園カフェのテーマにそぐわないということはあり得ないだろう。

これならいいお店になりそうだ。

農園カフェの正式な開店日を話し合いながら、俺はそう確信するのだった