森火事によって帝国が動けない間に、俺は工房に籠ってゴーレムを作成していく。

もちろん、作っているのは農園にいる作業用ゴーレムではなく、戦うためのもの。

器用さではなく頑丈さや攻撃力に特化しており、俺が錬金術で作り上げた武具を装備している。たとえ、遠方から魔法や魔道具を撃ち込まれようが、お構いなしに突き進んでくれる頼りになるゴーレムである。

戦力の少ない俺たちにとって、ゴーレムはとても頼りになる。

ゴーレムならば素材と俺の魔力さえあれば、いくらでも作り出すことが可能だ。

だからこうして空いた時間ができると、俺はちょくちょくとゴーレムを作成するようにしている。

「イサギ様、帝国が動きました」

「わかった。すぐに向かうよ」

メルシアに呼ばれたので俺はゴーレムをマジックバッグに収納する。

本当はもう少し細部の調整をしたかったが、帝国に動きがあった以上は中断するしかない。

魔力回復ポーションを口にし、俺はメルシアと共に渓谷を俯瞰できる防壁に移動。

そこには既にレギナやケルシーをはじめとする村人たちが集結していた。

レディア渓谷の谷底に広がる森は半日ほど経過してなお燃焼しており、赤熱した木々が転がっており、激しい煙を上げていた。

帝国兵の姿は見えない。

しばらく見守っていると、燃焼している森の上空に大きな円環が広がった。

巨大な円環の輪は青い光を灯すと、そこから激しい風雨を注いだ。

水と風による複合魔法だ。

魔法による激しい風雨によって鎮火し、煙は遥か彼方へと飛ばされた。

魔法が終わった後に炭化した木々が転がっていた。

帝国と俺たちの間を埋め尽くしていた森はもうない。阻むものがなくなった。

「帝国が進軍を再開したぞ!」

「なにあれ? 人間じゃない?」

獣人が声を上げ、レギナが小首を傾げた。

遠見の魔道具を覗き込むと、そこに写ったのは帝国兵ではない。

「ゴーレムだ!」

痛痒を一切感じないゴーレムを前面に押し出した戦略。

先程の攻撃による大きな被害もあってか、帝国側はゴーレムを使うことにしたようだ。

「レギナ、こっちもゴーレムを使うよ」

「ええ、お願い!」

そっちがゴーレムを出すのであれば、こちらもゴーレムを出すまでだ。

俺はマジックバッグから大量の武装ゴーレムを取り出すと、一斉に起動させた。

「いけ! 敵を蹴散らしてくれ!」

俺が指示を飛ばすと、武装ゴーレムたちはこくりと頷いて、一斉に前へ進み始めた。

「頼もしい光景だが、敵の方が遥かにゴーレムが多いな」

ケルシーがゴーレムたちを見送りながら言う。

準備期間中に俺が作成することのできたゴーレムは五百体だ。それに対して帝国側のゴーレムはその三倍以上だ。圧倒的な戦力差に不安になるのも仕方がない。

「問題ありません。質ではイサギ様のゴーレムの方が勝っています」

「そうは言うが、敵のゴーレムは三倍だぞ?」

「問題ありません」

ケルシーが不安げな声を上げるが、メルシアがきっぱりと否定した。

「ケルシーはイサギの作ったゴーレムと戦ったことがないから不安に思うのも仕方ないわね。とりあえず、今はゴーレムに任せましょう」

「レギナ様がそうおっしゃるのであれば……」

レギナがそう言うと、ケルシーは不安そうにしながらも頷いた。

自分の作ったゴーレムだけに自信満々な言葉は言いづらいが、この日のために備えた作ったゴーレムだ。たとえ、帝国の宮廷錬金術師が作り上げたゴーレムだろうと負ける気はしない。

砦から見守っていると両者の距離があっという間に縮まる。

そして、帝国のゴーレムと俺の作った武装ゴーレムがぶつかり合う距離になる。

最初に動いたのは相手側のゴーレムだ。

帝国は射程距離に入るなり、剣、槍、斧などの魔道具を突き出し、様々な属性魔法を放ってきた。どうやら帝国はこの数のゴーレムにも魔道具を装備させているらしい。

それに対し、俺の作った武装ゴーレムは両腕を前に突き出して防御姿勢となり、その身体で受け止めた。

何百もの魔法が着弾し、激しい土煙が舞い上がる。

その威力に砦から見守っていると獣人たちが呆然とするが、次の瞬間煙を突き破る形で俺の武装ゴーレムが跳躍した。

武装ゴーレムは素早く駆け出して帝国ゴーレムに近寄る。当然、敵のゴーレムも装備していた魔法剣で応戦するが、武装ゴーレムの剣は魔法剣ごと敵を切り裂いた。

それは先陣を切った一体だけでなく、あちこちで同じような展開が繰り広げられる。

「こ、これは?」

「先ほど言ったじゃないですか、父さん。帝国のゴーレムとイサギ様のゴーレムでは質が違うと」

「いや、そうは言っていたが、まさかここまで一方的とは」

「あたしでもイサギの武装ゴーレムを抑えるのは三体で精一杯だからね。並のゴーレムや兵士だととても太刀打ちできないと思うわ」

レギナのあっさりとした言葉にケルシーは戦慄しているようだ。

俺がやってきてからプルメニア村では大いに活躍しているが、軍用となるとそこまでのスペックになるとは思っていなかったのだろう。

ライオネルから融通してもらったありったけの素材と、俺の莫大な魔力を注ぎ込んでいるからね。

魔力鉱をはじめとする、アダマンタイト、魔力鋼などふんだんに使用して強化している。

ちょっとやそこらの魔法ではビクともしない。

「それにしても帝国のゴーレムがやけにあっさりと倒れていくものだ」

「元は俺も帝国にいた人間ですから。帝国がどのような構造のゴーレムを作っているか、どんな動かし方をするかはお見通しです」

帝国の軍用ゴーレムの運用の仕方は、とにかく多くのゴーレムを作り、そこに魔道具を装備させるといった方法だ。その方法は理に適っているが、肝心のゴーレム作りの技術自体は低い。なぜならば、帝国の宮廷錬金術師は軍用魔道具の開発や作成には熱心であるが、ゴーレムの作成自体にはあまり熱心ではない。

ゴーレムなど先頭に立たせて、魔道具を発射するだけの固定砲台、あるいは肉壁、そのような思想しか持っていない。

それ故に、ゴーレム同士の激しい戦闘などは想定されておらず、実際に戦闘を行うとこのようになるわけだ。

仮に対応できたとしても、手足の可動域が狭かったり、可動域に限界があったりと稚拙だ。

そこを一方的に突いてやれば、簡単に倒すことができる。

「さ、さすがはイサギ君だな」

「イサギがこっち側にいてくれて本当に助かるわ」

帝国ゴーレムの弱点を解説すると、ケルシーとレギナがやや畏怖のこもった表情で呟いた。

そう言ってくれると俺も頑張った甲斐があるというものだ。

「ゴーレムの脆弱性については過去にイサギ様が何度も訴えていたことですのに……」

脆弱性を突かれ、バッタバッタと倒れていく帝国ゴーレムを見て、メルシアが哀れな視線を向ける。

ゴーレムの脆弱性については何度も訴えたんだけど、ガリウスに却下されたんだっけ。

あの時はなんて言われたんだっけ……確か魔道具を持たせるだけの飾りに労力を割くよりも、軍用魔道具の開発に力を割けみたいなことを言われた気がする。

今思い出すと、ちょっとむかつく出来事だが、目の前で繰り広げられている光景が俺の主張の正しさを証明してくれているのでスッキリとした気分だった。