火炎剣、雷鳴剣、風刃剣、土精剣の試運転が問題なく終わると、最後に残っている氷結剣だ。

「最後は氷結剣ね。使ってみてもいいかしら?」

「いいよ。ただそれだけはマナタイトを使っているから魔力の消耗には注意してくれ」

「わかったわ」

五本作った魔法剣の中で、氷結剣だけはマナタイトで作ってある。

魔力鉱で作った魔法剣と比べると、魔力伝導率は桁違いなので圧倒的な威力が出るはずだ。

レギナは氷結剣を上段に構えると、魔力を込めて一気に振り下ろした。

魔法剣から冷気が迸り、視線の先にあった岩は一瞬にして呑み込まれた。

岩が凍り付くだけで減少は収まらず、その先にある谷底まで一気に凍り付く。

気が付けば、俺たちの視界は一面の氷景色が広がることになった。

そんな魔法剣の威力に驚く俺とメルシアだったが、レギナがよろめくように片膝をついた。

「大丈夫かい? レギナ!?」

「……はぁ、はぁ、大丈夫よ。すごい威力だけど……かなり魔力も持っていかれるわね……」

どうやら魔法剣の使用による急激に魔力を消耗してしまったようだ。

「魔力回復ポーションです」

「あ、ありがとう」

メルシアが魔力回復ポーションを渡すと、レギナは瓶を開けてこくりと呑んだ。

時間が経過すれば、レギナの魔力も完全に回復するだろう。

「これは俺のミスだ。もう少し魔法式を調整するべきだった。ごめん、レギナ」

「いいえ、あたしも浮かれて多く魔力を流しちゃったわ。イサギが謝ることじゃないわ」

帝国にいた騎士、魔法使いなどに比べると、獣人の魔力総量は少ない。

そのことを念頭に考えた上で魔法式の調整をしなければならなかった。

獣人にしては魔力総量が多いレギナが少し多めに魔力を込めて振るっただけで、ここまで消耗してしまうなんて使い物にならない。

「強化食材で魔力を増やせばどうかしら?」

「それなら倒れずに済むけど、消耗はかなり大きいよ?」

「それでもこの威力の武器は使う価値がある。だから、念のために何本か作っておいてほしいわ」

「わかった。レギナがそう言うなら……」

あくまで戦争の指揮を執るのはレギナだ。

指揮官である彼女が必要だというのであれば、作っておくことにする。

「魔法剣は絶大な効果があるけど、獣人の特性を考えると合っているとは言い難いな」

魔法剣は他の魔道具と違って、魔石が魔力を補ってくれるわけではない。自前の魔力が必要になるのであれば、魔力総量の少ない獣人には合っていると言い難い。

「そうね。できれば、魔力を消費しないものがいいわね」

「でしたら、投擲魔道具を作ってみるのはいかがでしょう?」

レギナと唸っていると、メルシアがそのような提案をした。

「投擲魔道具?」

確かに魔力を使用しないし、使いやすい魔道具の一つだが、戦争で役に立つのだろうか?

「人間でしたら投擲できる距離に限界があるので使用が難しいですが、我々獣人の膂力を持ってすれば……」

俺のそんな疑問を解消するようにメルシアが足元にある石を拾い上げて投擲。

それだけで五十メートルほど先にある岩が破砕された。

「長距離魔法並の威力が出せます」

「そうか。獣人の長所を伸ばす形で魔道具を作ってやればいいのか」

獣人の持ち前は、鋭敏な感覚機能と驚異的な身体能力だ。身体を使う、単純な魔道具の運用こそ真価を発揮すると言えるだろう。

「だったら単純に身体能力を強化する魔道具を作ろうかな。他にも安全に敵に接近できるように魔力障壁を生成する魔道具もあると便利そう」

「あっ、それなら障壁を宙に展開して、足場とか作れるようにしてくれると嬉しいかも! ラオス砂漠でイサギが砂とかを足場にしてくれるがすごく便利だったのよね」

「魔力障壁を足場にするか……その発想はなかったよ」

「他には熱などの属性を無効化する魔道具などもあると有り難いですね。多少の攻撃は無視して、突っ込むことができます」

「確かにそれは便利ね! 敵の意表も突けそうだわ!」

メルシアの意見にレギナが深く同意するように頷く。

爆炎に突っ込むなんて無茶なことはそもそもしてほしくないんだけど、前線で戦う彼女たちにとっては切実な問題のようだ。

一応、そういった属性攻撃などを軽減する魔道具も用意しておこう。

にしてもこうやって魔道具の話をするのは楽しいものだ。

できれば、その魔道具が軍事的なものではなく、生活を豊かにするための話し合いであれば、とても幸せだったのだけど状況的に仕方がない。

今は生き残るための魔道具を作るけど、落ち着いたら皆で人々を笑顔にするための魔道具談義をしたいものだ。





レギナ、メルシアと話し合って、生産する魔道具の主な方向性を決めると、俺は砦に籠ってひたすらに作業に没頭していた。

魔法剣の生産、村人の使う武具の強化、障壁の魔道具、耐性魔道具などと俺が作るべきものはたくさんある。

そんな中、今作っているのは魔石爆弾だ。内部には属性魔石が埋め込まれている。

微量な魔力を流すことで臨界寸前の魔石が起動状態となり、後は敵のいるところに投げ込んでやれば衝撃で自動的に爆発する仕組みだ。

錬金術による魔力加工を応用して兵器化した魔道具である。内部に埋め込む属性魔石を変えれば、それぞれの用途に変えた属性爆弾へと変化させることができる。

人間だと精々数十メートルほどしか飛ばせないので、ちょっとした飛び道具や自衛用の魔道具といった位置づけであるが、獣人が使えば恐ろしい性能になるのはメルシアの実例で立証済みだ。

生産された魔道具や武具のいくつかは戦う村人に配布されており、レギナやケルシーの監督の元に配布されて練習を行っているようだ。

いくら身体能力の高い獣人とはいえ、使ったこともない武具や魔道具を実戦で使うのは危険だからね。

しっかりと魔道具やアイテムの特性を把握した上で使ってもらえたらと思う。

「ただいま、戻りました」

「お帰り、メルシア」

魔石爆弾を作っているとメルシアが工房に戻ってきた。

「魔物の数はどうだった?」

「今日はほとんどおりませんでした。ここの二日の間引きによって、この辺りが我々の縄張りだと理解できたのでしょう」

彼女は砦の安全確保のために、周囲にいる魔物の討伐をしてくれていたのだ。

「それはよかった」

前から帝国、後ろからは魔物が襲ってくるなんて事になればシャレにならないからね。

「魔石は八個ほど手に入りました」

「ありがとう。無属性の魔石でも十分な効果を発揮するから助かるよ」

あまり質のいい魔石で加工すると、魔石爆弾は取り扱いが難しくなってしまう。

魔道具の扱いに慣れていない人には、普通ぐらいの質の魔石がちょうどいい。

テーブルの上に並べられた魔石に手を伸ばすと、その上に手が重なる。

思わず顔を上げると、メルシアがこちらを覗き込んでいた。

「……イサギ様」

「ど、どうしたのメルシア?」

尋ねるもメルシアは真剣な表情でこちらを覗き込んでくる。

思わず仰け反って距離を取ろうとしても、手を抑えられているために逃げることができない。

一体どうしたというのか。