メルシア、ネーア、ケルシー、シエナに収穫を手伝ってもらうこと三日。

ようやく収穫期の作物を収穫することができた。

まだ収穫期に達していない作物が、ちょいちょいと残っているがそれは俺とメルシアで十分にこなせる作業量だ。

「これで収穫は終わりかな?」

「はい、終わりです! 手伝ってくださって本当にありがとうございました!」

ネーアの言葉に頷いて頭を下げると、ケルシーやシエナもホッとしたような顔になった。

一日ならまだしも結果として三日も手伝ってもらうことになった。本当にこの三人には頭が上がらない思いだ。今後はこんなことにならないように考えて作物の実験をすることにしよう。

「ところで収穫した作物にどうするつもりだ?」

自らの行いを振り返っていると、ケルシーが尋ねてくる。

「こちらに越してきた挨拶としてプルメニアの皆さんにお配りしようかなと思っています。さすがにずっと保管しておくのもマジックバッグを圧迫するので」

収穫したすべての作物を収納することができたが、容量的には結構限界だ。

バッグの中に入れておけば、保存という面では問題ないが、日常生活や仕事を行う上ではもう少し軽くしておきたい。なんて理由も述べると、シエナがポンと手を合わせながら提案してきた。

「それなら宴を開いちゃうのはどう? イサギさんの畑で獲れた作物で料理を作って振舞うの。村人全員に顔を見せることができるから挨拶も楽になるわよ」

「宴を開くとなると大変なのではないでしょうか?」

帝城でもパーティーの類が頻繁に行われていたが、準備がとても大変そうだったのを覚えている。

「イサギ様、宴とは申しましても帝城で行われるような豪奢なものではありませんよ。中央広場に人を呼んでイスやテーブルを並べるだけの気楽なものです」

俺の想像している宴との違いに気づいたのか、メルシアがイメージを訂正してくれる。

「そうだった。帝城での生活が長かったから勘違いしていたよ」

考えれば、ここは帝都ではない。

帝城のような豪奢なパーティーと同じなわけがなかった。なんだか恥ずかしい。

「料理についても私やメルシアちゃんだけでなく、参加する村人たちも手伝ってくれるから問題ないわよ」

「でしたら、収穫した作物は宴で使っちゃいましょう!」

この作物は俺とメルシアだけでは収穫することのできなかったものだ。

だったら、手伝ってくれた皆や村のために使ってあげるのが正しい。

この量だと俺とメルシアだけで消費しようにも年単位で時間がかかるだろうし。

「決まりだな。今夜は宴だ!」

「はい! ――って、今夜ですか!?」

現在は日中。今夜となると、あと数時間程度の時間しかない。

「じゃあ、村の人たちに声をかけて準備を進めるわ!」

俺が戸惑うのをよそにケルシーやシエナは嬉しそうに頷いて動き出した。

まさか今日の今日でやるとは思わなかった。

「大丈夫かな? ちゃんと皆来てくれるかな?」

俺は人間族であり、プルメニア村にやってきたばかりだ。

そんな俺が錬金術で育てた作物を、この村の人たちは食べにきてくれるだろうか。

帝都ではパーティーを開いたが、人望がないせいで参加人数が悲惨だったという事件もよく耳にしていた。それと同じことが起きないか心配でならない。

「当日でも皆さんいらっしゃると思います。なにせこんな風に宴を開くなど久しぶりですから」

「ニャー! ここに住んでる人はそういう楽しそうなの大好きだしね!」

メルシアとネーアには確信があるのか、俺が抱いている心配はまるでしていないようだった。二人がそこまで言うならやってくる人が皆無ということはないのだろう。ウジウジと心配するのはやめて、二人を信じてどっしりと構えることにした。

「あたしは荷物を持って帰って準備してくるよ」

作業道具を一通り片付け終えると、ネーアはたんまりと収穫した作物を持ちながら走っていった。一旦家に戻って宴の準備を手伝いにきてくれるのだろう。

「では、私たちは広場に作物を持っていきましょうか」

「そうだね」

宴に使う食材は俺たちが持っている。早く運び込んであげないと準備ができないだろう。

俺は作業着から私服に着替えると、メルシアと共に中央広場に向かった。

中央広場にやってくると、既に大勢の村人たちがいた。

舗装された地面の上には大きなテーブルやイスが並んでいる。

しかし、集まってくる村人の数はそれ以上に多いからか、各家庭から追加でテーブルやイスを持ち出している様子だった。

「もうこんなにたくさんの村人が集まってるんだ」

ケルシーやシエナが情報を広めて小一時間しか経過していないはずだが、既に多くの村人が集まって準備を始めていた。

恐るべきは田舎の村の情報伝達力か、あるいは宴という楽しそうな催しに対する好奇心だろうか。

「あっ! イサギさん! ちょうどよかった! そろそろ調理を始めたいから食材を出してくれると助かるわ!」

想像以上の人の集まりに驚いていると、シエナがこちらに寄ってくる。

「わかりました。どこに置けばいいでしょう?」

「こっちのテーブルに置いていってくれれば、私たちが勝手に調理するわ」

シエナの周りには多くの獣人女性たちが集まっている。

たくさんの視線が集まり、いまかいまかと食材を吐き出すのを待っているようだ。

「わかりました! では、食材を置いていきます!」

俺はマジックバッグを開けると、収穫した食材をひたすらにテーブルの上に吐き出していく。

その瞬間、わっと湧き上がるような歓声が出た。

「こんなにも食材がたくさん!」

「このトマト、とてもヘタが綺麗だし皮に張りもあるわ!」

「これ全部イサギさんの畑で収穫したものなの?」

「はい。シエナさんやケルシーさんたちに手伝ってもらいながら収穫しました。獲れたてですよ」

なんて相槌を打つと、女性たちがきゃいきゃいと元気な声を上げながら食材を手にしていく。

「これだけ新鮮な食材を使うのは久しぶりだね。腕が鳴るよ」

「何を作っちゃいましょうか~?」

などと言いつつも女性たちは食材を手にして、調理台で食材の下ごしらえを始めた。

口では迷っちゃうと言いながら手が緩まないのは、既に内では何を作るか決定しているか。

あるいは作りながら決めているのかもしれない。料理が得意な人ってすごい。

「それでは私も調理を手伝ってまいります」

「俺に手伝えることはあるかな? せっかくだから何か手伝いたくて」

俺が申し出ると、メルシアは周囲を見回して言った。

「でしたら、イサギ様のお力で大人数用の大きな鍋やフライパンを作ってくださると助かります。私が想定している以上に村人が集まってきているので」

炊き出し用の大きな鍋やフライパンを持ち寄っているようだが、これだけ大人数の料理を作るには小さいように感じた。

「わかった。錬金術で作るよ」

俺はマジックバッグから鉄塊を取り出すと、魔力を流して形状を変化させた。

「……これは大き過ぎるかな?」

帝都の騎士団や修道女たちが炊き出しで使っている大鍋をイメージして作ってみたが、さすがに大きすぎたかもしれない。

およそ百リットルは入るだろう。空のままでもかなり重く、俺自身では両手でようやく持ち上げられるかといったところ。

ここに食材が入っていくことを考えると持ち運ぶのは不可能なのではないだろうか。

もうちょっと小さくしようと考えたところでメルシアがやってきた。

彼女はぺこりと頭を下げると、大鍋を軽々と片手で持ち上げた。

「助かります。このサイズであれば、大人数用のスープ料理ができますので」

「あっ、うん。役に立てたようで良かったよ」

呆気にとられながら見送った先では、メルシアが持ってきた大鍋を華奢な女性獣人が軽々と受け取っていた。

やはり人間族と獣人族では根本的な膂力が違うようだ。

わかっていても重いものを軽々と持ち上げる姿には驚いてしまう。

とはいえ、使いやすい大鍋のサイズがわかったのはいいことだ。

俺は追加で大鍋を四つほど量産する。

作り上げた瞬間にメルシアが調理場に運んでいく。

「イサギ様、次は大きなフライパンを五つほど作ってもらえると助かります」

「わかったよ」

同じように錬金術で大きなフライパンを五つほど作ると、調理場に運ばれてカットされた食材と肉で豪快に炒めものが作られていく。

「このフライパンとても使いやすくていいね! ありがとう!」

「鍋も大きくてまとめて調理できるから助かるわ」

鍋やフライパンを作り終えると、調理場の女性たちからそんな感想を貰えた。

帝城での錬金術による作業は、ひたすらに流れ作業で割り振られたものを淡々とこなすだけ。たとえ、なにかを加工しようと修理しようと感謝されることはない。

だから、こうやって直接感謝されるのは初めてだった。

「ありがとうございます!」

なんだかこういうのっていいな。