十一.対峙

 エリルと別れたジョシュはぐるりと大広間を回って、参加者の顔や警備の配置を確認した。
 歩いている間にも様々な噂を耳にする。
「あんなに年若い王妃を娶るなんて」
「息子よりも若い母なんて、エドガー王子がお気の毒」
「元は占い師ですって」
「その占いに王がご執心だとか」
 小さな囁き声もジョシュの耳は具に拾う。
 王妃のお披露目とあって、今日の夜会は国中の貴族たちが集まっていた。
 顔見知りに捕まらないよう、人波を素早くすり抜け、玉座の近くまでたどり着くと、そこに座す少女に目を奪われた。
 真っ直ぐな黒髪、無表情に前を見つめる黒曜石のような瞳、まだ15、6の歳にしか見えない少女。纏う雰囲気はジョシュの愛する少女とは似て非なるものだったが、面立ちは瓜二つと言ってよかった。
 そして、その瞬間、エリルの晒されている危険に気付く。
 新しい王妃に瓜二つな顔の少女。
 どんな疑いの目を向けられるか知れない。
(早くここから連れ出さなくては)
 ジョシュは急いで、エリルに待つよう指示した場所へ向かった。
 しかし、そこにエリルの姿はなかった。
 ジョシュは耳を澄まし、辺りの様子からエリルの居場所を探る。
     騒めきの中に、小さなエリルの声を捉えた。
 ジョシュは踵を返し、そちらへ向かう。
 人垣の中に、小さな背中が見えた。

「エリルっ」

 振り返ったエリルは安堵の表情を浮かべた。その小さな肩を抱き、一刻も早くその場から連れ出そうとするも、それを引き止める手があった。

「一曲、お相手願おう」
 エドガー王子だ。
 前妃との間の王子で、その端麗な容姿や、軍を率いる手腕から人望も厚い王子は、このような席では女性たちからの誘いが引きも切らない。
 そしてジョシュが最も敵に回したくない人物でもあった。
 エドガーはエリルの腕を掴み、鋭い視線で見つめている。
 エドガーはもちろんネイドリルの顔を知っているだろう。これほどよく似た少女が現れて放っておくはずがなかった。
 見咎められる前にここを出たかったが、間に合わなかったようだ。
 王子に腕を取られ困った様子でエリルがこちらを見上げてくる。
「初めての夜会で緊張しているようで、ご無礼をいたしました。どうぞダンスはご勘弁ください」
「一曲だけだ。ジョシュ・バークレイ」
 断りの言葉を述べるも、王子に譲る気は全く見えない。
 仕方なくエリルの肩に回した腕を解く。
 エドガーに逆らっては余計に疑いを持たれるだろう。
 二人が踊るのを苦々しく見つめながら、目を離さないよう、様子を伺う。
 ややして、王子がネイドリルをエリルに見せるそぶりがあった。
 エリルがネイドリルの方に目を向け、よろめいた。自分にそっくりな人物がネイドリルだと気付いて衝撃を受けたに違いない。
 王子の腕の中で崩折れる姿に、ジョシュは居ても立っても居られず駆け寄った。
 エリルは気を失っていた。
 エドガーは険しい声で近衛を呼び、近づこうとするジョシュを阻んだ。
「バークレイ、この娘とどういう関係だ?」
 エドガーは厳しい調子でジョシュに問いかけながら、エリルを抱き上げて歩き出す。
 後を追いながら、エリルを連れ帰りたいと訴えるが、エドガーはそれを拒否した。
「その方にも聞きたいことがある。暫く身柄を拘束させてもらおう」
 大広間を出たところで、数人の近衛に取り囲まれジョシュは連れて行かれる。
 振りほどいてエリルを取り返し、この場から逃げることも考えたが、それではエリルは一生追われる身となってしまう。
 大広間のある建物から回廊を通って、城の北側にある塔へと連れて行かれた。
 途中木立の奥からこちらの様子を伺っているロウの姿を目に止め、目配せを送っておく。エリルはロウが守ってくれるだろう。
 二人が踊るのを苦々しく見つめながら、目を離さないよう、様子を伺う。
 ややして、王子がネイドリルをエリルに見せるそぶりがあった。
 エリルがネイドリルの方に目を向け、よろめいた。自分にそっくりな人物がネイドリルだと気付いて衝撃を受けたに違いない。
 王子の腕の中で崩折れる姿に、ジョシュは居ても立っても居られず駆け寄った。
 エリルは気を失っていた。
 エドガーは険しい声で近衛を呼び、近づこうとするジョシュを阻んだ。
「バークレイ、この娘とどういう関係だ?」
 エドガーは厳しい調子でジョシュに問いかけながら、エリルを抱き上げて歩き出す。
 後を追いながら、エリルを連れ帰りたいと訴えるが、エドガーはそれを拒否した。
「その方にも聞きたいことがある。暫く身柄を拘束させてもらおう」
 大広間を出たところで、数人の近衛に取り囲まれジョシュは連れて行かれる。
 振りほどいてエリルを取り返し、この場から逃げることも考えたが、それではエリルは一生追われる身となってしまう。
 大広間のある建物から回廊を通って、城の北側にある塔へと連れて行かれた。
 途中木立の奥からこちらの様子を伺っているロウの姿を目に止め、目配せを送っておく。エリルはロウが守ってくれるだろう。
 エリルを守らなければならない。その為に今の生活を失うことになろうとも、構いはしない。ジョシュは決意を固め、その瞳を赤く染めた。