押し入れの中は暗くて狭くて臭くて息苦しくて、物凄く居心地が悪いんだ。虫もたくさん湧いてるし、そこらじゅう汚い。
でもおれはこの中で、丸く縮こまってるしか出来ないんだ。
だって、勝手に外に出たら…
「兄貴。」
ある日、またあいつが勝手に押し入れを開けた。
やめろよ、閉めろよ。おれが怒られるだろ。
喉が渇ききって声が出ない。目の前がぼんやりして気持ち悪い。精一杯睨み付けるけど、おれとそっくりな顔のあいつは、笑ってる。笑ってやがる。
「兄貴。
もう父さんも母さんもいないから、出て来て大丈夫だよ。」
「え?」
何、どういうこと?いないって何?
あいつは無理矢理おれの腕を掴んで引っ張り出そうとする。あいつのたくましい腕に比べて、おれの腕はガリガリで木の枝みたいだ。顔は似てても、体格は全然違う。それがまたおれの惨めさを煽るんだ。
あいつはとうとうおれを、汗臭まみれの汚い押し入れから引き摺り出した。
「兄貴、一緒に飯食おうよ。昔みたいに。」
ああもう、なんなんだよ。
本当に、おれはこいつが嫌いだ…。