「兄貴、出て来いよ。」
あいつは今日も懲りずに押し入れを開ける。
「…………おい、押し入れを開けるな。」
何度やめろと言ってもやめない。
おれがこんな所で丸く縮こまっているのを面白がっているに違いない。
兄と弟。
どうして兄弟っていうのは、同じ箱の中で育てられるのか。
分け隔てなく、平等に、とはよく聞く耳障りの良い言葉ではあるけど、実際問題、二人の子どもには必ず「差」が生まれる。
おれとあいつの場合はもっと厄介だ。何せ、おれ達は「双子」だった。
顔も似てる。背も同じくらい。それなのに、元々の頭の作りが違ったのか。運動神経にバグでも起こったのか。
おれ達は見た目はそっくりなのに、成長するにつれ、あいつはおれより勉強が出来るようになった。おれより運動も出来た。おれより社交的で周りにはいつも人がいた。
面白くない。だって、双子と言っても、生まれたのはほんのちょっとだけおれが早いんだ。
だから、おれが「兄」になる。
小さい頃はよく遊んださ。楽しかった。兄貴とか弟とかなくて、おれにとっては友達以上に特別だった。
…それなのに、「兄」なのに、成長するにつれて差は開き始める。出来は何もかも弟に劣る。
自分なりにどんなに努力しても差は開くばかり。
「顔は同じなのにねぇ。」「双子なのにねぇ。」何度聞かされたか分からない。
同じじゃねぇよ。似てるだけだ。
おれはおれだよ。
なんでどいつもこいつも比べたがるんだ?
おれはあいつが嫌いだった。あいつを見てるとムカムカして、自分がものすごく惨めに思えるからだ。
それなのに、あいつはおれから離れない。
「兄貴、一緒に飯食おうよ。」
押し入れに閉じこもるおれに、わざわざ声を掛けてきた。誰がお前なんかと。