きっと、自分の耳は彼よりずっと赤くなっている。思いながら由香奈はかすれた声を押し出す。
「だから、あの……きちんと、したくて。ごめんなさい……」
 最後には息も絶え絶えに消え入りそうな声になる。大きなサンタ帽がずり下がって目元を隠す。もそもそ帽子を上げると、春日井の友だちさんは怒る様子もなくにこっと笑ってくれた。
「真面目だなあ」
「ち、違うんです」
 由香奈はまた慌てて頭を振る。今までが、不毛すぎたから。これからはちゃんとしたい。そう思ったから。

「あのさ……」
 少し体を屈めて、こそっと彼は囁いた。
「好きな人って、春日井?」
 サンタメイドの衣装と同じくらいに由香奈は顔を真っ赤にする。恥ずかしくてトレーで顔を隠す。けれど、どうしても気になって、トレーを少し下げて彼に尋ねてみた。
「私……、そんなにわかりやすいですか?」
 春日井の友だちさんは、はははっと盛大に笑った。




 夕方、プログラミング体験の受付が終了し、商店街を歩く買い物客の数も減ったところで、オープンカフェも営業を終えた。テーブルや椅子を片づけて店内のレイアウトも元に戻す。通常のディナーの営業に切り替わる。

「お疲れ様!」
 またまた園美さんはいい笑顔で由香奈を労ってくれた。着替えて帰っていいよーと言われ、くたくただったから素直にそうさせてもらった。
 クレアと春日井も同じように声をかけられたらしく三人一緒に店を出た。
「あたし飲み会あるから。じゃーねー」

 クレアが駅前に向かって行ってしまうと、春日井とふたりきりになった。
「大人のクリスマスはこれからってことだね」
「そうですね」
 商店街とは逆に、駅前通りの居酒屋やダイニングバーの類の周辺は、着飾った大人たちで賑わい始めていた。

「どっかでご飯食べてく?」
 とても心ひかれたけれど、由香奈は首を横に振った。今日はもう静かな場所に行きたい。
「そうだね」
 言葉にしなくても由香奈の心情が伝わったのか、春日井は穏やかに笑った。

 駅前を離れ、イルミネーションを纏った街路樹が途切れると、辺りも閑散となった。マンションへ続く街路はいつも通りの静かさだった。

「俺が越してきた頃にはまだ暑かったのに、もう年末だもんなあ」
 ダウンジャケットの肩を寒そうに竦め春日井は白い息を吹き上げる。
「面倒だけど、正月には母親に何か買って帰らなきゃ。近いといえば近いから、帰るのはいつでもいいって思ってたけど、こういうときじゃないと帰らないってほんとだね。由香奈ちゃんは? いつから帰省するの?」
「あ、私は……」