「ヘンなのが寄ってこないようにソウタくんたちがガードしてるけど」
 春日井がぶつぶつ言っているのに首を傾げ、由香奈は紅茶を飲み干して客席に戻った。

 午後の早い時間には午前中ほど混雑せず、店内もいったん落ち着いたふうだった。そんな中、春日井の友人たちがやって来た。
「由香奈ちゃん、今日も可愛いね」
 にこにこと声をかけてくれたのは、ハロウィンのときに手伝いに来てくれた人らしい。正直、由香奈は顔を覚えていなかった。

 春日井が出てきて店内へと友人たちを案内する。グループの中には女の子もいた。考えてみれば、由香奈は春日井が子どもたちと遊んでいる姿しか知らない。大学では当然、同年代の女の子と話したりするのだ。胸がちくっとして由香奈は空のトレーを抱きしめる。

「由香奈ー。オレ、ココアが飲みたい」
 空いている客席に座ってソウタくんが声をあげる。今日はずっとお手伝いしてくれている。
「そうだね。少し休憩して」
 何より彼の存在がありがたかったから、由香奈は笑ってココアを持ってきてあげた。

 午後三時を回る頃、再び客席が込み合いだした。またあたふたと動いているうちに、客席にさっきの春日井の友だちの顔を見つけた。手を上げて呼ばれ、由香奈は注文を取りに駆け寄る。
「コーヒーをください」
「はい、ありがとうございます。少々お待ちください」
 厨房へ行くとき店内も見渡してみたけれど、一緒に来た他の人たちは帰ってしまったようだった。

 会計は前払いだから、席を立つお客さんへは可能な限りそばに寄ってお礼をする。春日井の友人が席を離れたときにも、由香奈は駆け寄って丁寧にお辞儀をした。
「お願いがあるんだけど」
 サンタ帽越しに聞こえた言葉に由香奈は顔を上げる。彼は頬をかきながら、スマートフォンを取り出していた。
「今度、ご飯でも行かない?」
「……え?」

「あ、いや。由香奈ちゃん可愛いから、友だちになれないかと思って」
 びっくりして由香奈は固まる。
「と、とりあえず、連絡先、教えてもらえないかな……?」
 耳を赤くしてしどろもどろに言われ、由香奈もどうしようと鼻の頭に汗を浮かべる。この人、決してこういうことに慣れてない。なのに頑張って言ってくれてる。それがわかったから、由香奈は慎重に言葉を選んだ。つもりだったのだが。

「ごめんなさいっ」
「え、ええええ。そんな全力でお断り?」
 スマホを落としそうな勢いで彼はショックを受けている。
「あ、いえ。そういうわけじゃなくて……」
「そうかー。そんなに脈ナシかあ。おれってそんなに駄目かあ」
「そ、そうじゃなくて。あの、私……す、好きな人がいるから」