遊歩道を引き返すと、天然石の土産物店の前でローズクオーツの原石を見ているクレアを見つけた。
「ごめん、先に行ってた」
「いいですよ」
「そっちのお店見た? 天然石のビーズがたくさんあったよ」
「おー、見たい見たい」

 予想通りクレアはまた被りつきになってしまい、またかなり時間を浪費した。
「ごめーん。でもいい買い物できた」
 本人がほくほく顔なので何も言えないが。

 夕暮れ時と言っていい時間帯になり美術館の駐車場は閑散となっていた。何しろ盆地を囲む山肌に位置した場所だ。日が陰るのはあっという間で、薄暗く人影もなくなったそこでぽつんと中村が待っていた。
「おまえら遅すぎ。どこ行ってた」
 そう言う自分はどこにいたのか。クルマで坂道を下って市道に出たところで提案された。

「もうさ、一泊してかない?」
「そんな急に」
「県道沿いに日帰り温泉で深夜割増かからないとこあるぞ。入館料二千円で、仮眠室でばっちり眠れる」
「温泉かあ」
 クレアは少し気を引かれているようだ。由香奈も大きなお風呂に入りたい気持ちはあった。
「その方が晩飯もゆっくり食べれるだろ。そんでのんびり風呂浸かって休んで朝帰った方が楽だって」
 中村が言うことはその通りな気がするのか、春日井もやがて頷いた。

 安く泊まれる場所があるならと夕飯は少し奮発してステーキレストランに入った。セットメニューのあらびきハンバーグは肉汁たっぷりで美味しくて、歩いてお腹が減っていたので女子ふたりにもちょうどいいボリュームだった。会計時にこれから向かう温泉施設の割引券を貰えたのもちょうどよかった。

 主要道路沿いに広々とした駐車場を持つ温泉施設も、閑散としたありさまだった。行楽シーズンとはいえ、平日はこういうものなのだろうか。
「じゃあ、ここから自由行動でいいでしょ。明日、朝ここに集合」
 受付で会計をすませ、館内着とタオルの入った手提げとロッカーキーを受け取ったところで、クレアは早々に解散宣言して由香奈の手を引っ張った。

「まずはゆっくりお風呂入ろ」
 女湯の暖簾を潜った先、ロッカーが並ぶ脱衣所は広々していて洗面台もきれいだった。ぱっぱと服を脱ぐクレアに焦って由香奈も準備する。

「うお、誰もいない。マジかー」
 正面に広々とした浴槽と、個別の洗い場が入り口から左右に分かれて並んでいる。浴槽の大きなガラス窓の向こうは露天風呂らしく、奥に外への出入り口があった。

 まずは頭と体を洗ってさっぱりする。その間に、露天風呂から三人グループの女性たちが戻ってきて、今度は室内風呂に浸かって賑やかにおしゃべりを始めた。そこで由香奈とクレアは露天風呂の方へ行くことにした。