朝早く出発したおかげで時間はまだたっぷりあった。更に高速道路を下って奇岩観光で有名な渓谷に向かった。インターチェンジを降りて市街地を抜ける。

 このあたりがお店が多いから今のうちに昼食を食べに寄ろうと話がまとまり、ハンドルを握る中村はなんの迷いもなく、観光客向けのようだがこじんまりした食事処に入った。

 ほうとうがメインのメニュー表を見て由香奈は思い出した。きっと地元だから中村はこのあたりに詳しいのだ。けれど本人が何も言わないから由香奈も黙っていた。

 まだぶどうでお腹がいっぱいで、かぼちゃのほうとう鍋をクレアとシェアすることにする。きのこや里芋などの季節の野菜や豚肉がたっぷり入ったほうとうはとても美味しかった。

 改めて白いプリウスは次の目的地へと向かった。街から少し北側に位置する国立公園は紅葉シーズンで観光客が多く、手前の駐車場は込み合っていたが、一行の目的地はもっと上った位置にある美術館だったので、混雑している分岐を横目にそのまま車道を進んだ。

「うわあ、紅葉がキレイだ」
 クレアは窓を開けてスマートフォンで写真を撮った。
「さみーよ」
 文句を言いつつ中村は、写真映えするスポットでいちいち車を停めていた。
 山が縦に割れたかのような切り立った崖の壮絶な眺めに、由香奈はまた口を開けて見入ってしまう。引き籠っていたら知らなかった景色だ。空がとても近い。

 下方の道路を歩く人々の脇を、観客を乗せたトテ馬車が通りすぎていく。カッポカッポと馬車を引く馬がとても大きくて、由香奈以外の三人は「黒王号だ!」と騒いでいたけれど由香奈にはなんのことだかわからなかった。

「行ってこい。オレは興味ないから外ぶらぶらしてる」
 肝心の美術館の駐車場で三人から離れ、中村は脇の橋を渡って行った。首をのばして見ると、渓谷沿いの遊歩道に繋がっているようだ。

「じゃあ、行こうか」
 残った由香奈たちは春日井を先頭に建物へと入った。チケット売り場から奥は地下の展示室で、薄暗い空間になっていて驚く。暗闇の中、光る壁面に浮かび上がっているのは彩色豊かな影絵の数々だ。由香奈はまた口を開けて見入ってしまう。