「なになに、ふたりだけでズルい」
 いきなり横から、由香奈が少し舐めただけのソフトクリームにかじりつかれた。半分ほどが持っていかれてしまう。
「あ……」
 呆然と由香奈は割れたワッフルコーンを見つめる。

「んまい」
「なにするんですか」
 ちゃっかり由香奈の隣に座った中村を、彼女の頭越しに春日井が怒る。
「いいじゃん」
「よくないです。女の子の食べかけを盗るなんてセ……」
「ああもう、まあまあ。由香奈に新しいの買ってあげなよ。あたしの分もね」
 戻ってくる間に状況が見えていたのか、クレアが仕方ないなあと春日井を宥めて売店に連れていく。

「なんであいつがあんなに怒るの?」
 彼女の方にもたれかかろうとするのを立ち上がって避けながら、由香奈は残りのコーンを中村に押しつけた。ぽいっとそれを口の中に入れてから、彼はおかしそうに口元をほころばせる。

「なんでつるんでるの? 絶対タイプ合わないでしょ」
「どうしてそんなことわかるんですか?」
 まともに反抗してしまい、そのキツイ口調に由香奈は自分自身で驚いた。どうしてだろう、一瞬、とても腹が立った。
 思わぬ由香奈の強い態度に中村も口を噤み、直後にまたあの嬉しそうな笑みを浮かべた。




 インターチェンジからほど近いぶどう農園では、時期ごとに数種類のぶどうが食べ放題で、由香奈は初め、ぶどう棚で鈴生りの房の数々を見上げて呆然としてしまった。蔦葉を透かして照明のように降り注ぐ日差しの下に垂れ下がるぶどうは、シャンデリアみたいにキラキラして見えた。

「由香奈。これ、これが甘くておいしい!」
 クレアがもぎとったぶどうの品種をパンフレットで確認する。市場には出回っていない希少価値の高いぶどうのようだ。一粒が大きくとても食べ応えがある。

「よし、こういう高級っぽい種類を選べばいいんだ!」
 目を輝かせるクレアと一緒に時間いっぱい甘いぶどうを楽しんだ。帰りには、もう時期も終わりだからとお土産用のぶどうをたくさんサービスしてもらえた。

 男性ふたりはといえば早々にぶどうに飽きたらしく、休憩スペースでコーヒーを飲みながらこの後のルートを相談していたようだ。藤堂から貰った美術館の券を春日井に見せてもらったクレアは、またまた目を輝かせた。
「影絵の森美術館じゃん。行ってみたかったんだ」