白いプリウスで車内には私物のようなものが何もない。飲み物などは先に近くのコンビニで買ってあったので、まずは春日井の運転で最寄りのインターチェンジに向かった。

 カーナビの指示通り高速道路に乗る。平日昼間の中央道は閑散としていた。立入防止柵が延々と流れていく光景を眺め、由香奈はぼんやり思い出す。
 小学生か、まだ幼稚園児かそれくらいの頃、叔母家族に交じってこんなふうにドライブに連れていってもらったことがあった。目的地はどこか外国を模したテーマパークで、ぐるぐる渦巻き状になったソーセージがとても長かったことくらいしか思い出せない。父親や母親は一緒ではなかった、と思う。

 車内にはずっとラジオが流れていた。後部座席のクレアと由香奈はぽつぽつ話したりもしていたが、ハンドルを握った春日井は微動だにしなかったし、助手席の中村はずっとカーナビとにらめっこしていた。
「次のサービスエリアで交代な」

 そこそこ混雑しているサービスエリアでクルマを降りると、春日井は思い切り伸びをした。
「肩凝った」
「おまえ緊張しすぎ。初心者か」
「四人分の命を背負ってるんだもんねー」
 口々に声を掛け合って中村とクレアは先に売店やお手洗いへ行ってしまう。運転をしない由香奈にはわからないが大変だったのだな、と少し反省する。だからといって気の利いた労いの言葉も出てこないのだが。

「由香奈ちゃん、ソフトクリーム食べようか」
 売店を指差して春日井が誘ってくれる。
「叔父さんがお小遣いくれたんだ。買ってくる」
 有名な牧場の人気商品らしく、練乳のような濃いミルクのソフトクリームでとても美味しかった。

「そうだ、なんか、美術館の券も貰ったんだ」
 由香奈と並んでベンチに座った春日井は、ソフトクリームに気をつけながら片手でネルシャツの胸ポケットから細長い紙きれを取り出した。太字で強調された場所は有名な観光名所のものだ。ぶどう農園から足を延ばせば行ける距離らしい。

「管理人さんて、絵が好きなんですね……」
「ん? そうかな」
 ワッフルコーンをかじりながら春日井は首を傾げる。
「掲示板にずっと美術展のポスターを」
「ああ。《忘れえぬ女》だっけ? あれは多分……」