「たまには学生らしく、レジャーに行ってきたら」
 園美さんが学生三人にぶどう狩り農園の入場券をくれたのは、イベントから三日後のことだった。
「このあいだ頑張ってくれたし。あ、交通費は自腹でお願いね」
 そう断りを入れるだけあって、この農園に行くとなったら足代の方がかかってしまいそうだ。

「果物狩りってけっこうお金取られるものね。タダなら行ってみたいけど。由香奈、ぶどう狩りってしたことある?」
 クレアの質問に由香奈は首を横に振る。
「叔父さんにクルマ借りようか」
 春日井が提案し、藤堂に相談してくれた。それで混雑する土日を避け、平日に日帰りレジャーに出かけることが決まった。

「私の休講の日に合わせてもらって良かったの?」
「いいの、いいの。平日に遊べるのは大学生の特権ですよね」
 さばさばしたクレアの物言いに春日井は苦笑する。
「俺も、ちょうど一コマしか入ってなかったから」

 するする話が進んで行く一方で、由香奈はとても緊張していた。同世代の友人とドライブなんて初めてだ。そもそも行楽に出かけた記憶がここ十年ほどない。
 一緒に行くのがクレアと春日井なのだから嫌な気持ちになることはないだろうし、果物は好きだけど口にする機会があまりないから楽しみだ。そう思っていたのに。

「二階の中村さん。知ってる?」
 朗らかに笑う春日井の隣にとても嬉しそうな顔をして中村が立っているのを見たとき、由香奈はくらりと眩暈がした。
「挨拶くらいはしたことありますよね?」
 無難に答えるクレアの後ろで由香奈は無言を通した。

「運転手で付き合ってくれるって」
「ですか。カスガイさん一人で長距離運転はキツイもんね。入場券はグループで五人までだし、ガソリン代の割り勘分減るし」
 淡々とつらつら述べた後、クレアが尋ねた。

「ふたり、いつ仲良くなったんですか?」
「んー、いつって……」
「そっちこそ、いつこんなに仲良くなったの?」
 言いかけた春日井を遮って、中村は他の三人に順々に視線を向ける。
「……」
「そんな話メンドクサイだけでしょ」
「……そうですね」
 クレアは素直に引き下がり、四人は藤堂のマイカーに乗り込んだ。