狭い室内にタイピング音が鳴り響く。

「あ、この栗饅頭超美味い! 宇佐美さんも食べません?」

 お土産に貰ったお菓子を嬉しそうに頬張る七尾に、宇佐美は呆れた視線を送る。

「食べてばっかいないで仕事しなさいよ」
「今は食欲の秋ッス!!」
「七尾くん、喉につまらせないよう気を付けてね」
「局長は読書の秋とか言って本に夢中になり過ぎないでくださいよ!」
「うっ……はい」
「月さんが珍しく怒られてるー!」

 あの日から数日。月野郵便局はいつも通り営業を続けていた。

「……あーあ。でも落ち込むなぁ」

 突然カウンターに顔を伏せた七尾が弱音を口にする。

「何よ、藪から棒に」
「……あの時、オレが月さんと宇佐美さんを守る! なんて大口叩いておきながら結局なんにも出来なかった。オレってホント使えないなーと思って」
「大丈夫よ。最初からアンタに期待なんてしてないわ」
「宇佐美さんたら相変わらず辛辣! でもそれが心地いい!」
「やだ気持ち悪い。今後私の半径五百メートル以内に近付かないでちょうだいね」
「半径五百メートルってどんだけッスか!? 会話どころか姿もまともに見れないッスよ!?」

 七尾はがばりと体を起こすと、あわあわと宇佐美に訴えた。キーボードを打つ手を動かしたまま、宇佐美はぼそりと言った。

「大体ね、そんなの気にする必要ないのよ。私も局長もその気持ちだけで嬉しかったんだから」
「え?」

 画面を見つめる横顔はほんのりと赤い。

「……う、宇佐美さんがデレたー!!」
「うるさい!」

 月野が二人のやりとりを微笑ましそうに見ていると、入口から不安そうな女性の声が響いた。

「あの、すみません。月野郵便局ってここですか?」

 三人は一斉に振り返る。

「どうしても届けてほしい手紙があるんですけど……お願いできますか?」

 月野はやんわりと人当たりのいい笑顔を浮かべると、大きく口を開いた。

「もちろんです。我々があなたの想い、責任を持ってお届け致しましょう」