窓の外から見える三つの背中がだんだん遠ざかっていく。その姿をぼんやりと眺めていた七尾が、寂しそうな声で言った。

「……いいッスね。家族って」

 その横顔は少し憂いを帯びている。

「そうだねぇ。でも、僕たちだってもう家族みたいなものだろう?」
「……だったら!」

 七尾は遮るように叫ぶと、ぐっと拳を握った。

「だったらもう隠し事はしないでくださいよ! 家族だって思ってるなら尚更!! 頼りないかもしれないけど、オレは月さんたちの力になりたい!! だから!」
「……うん。ありがとう」

 月野は七尾の気迫に一瞬驚くと、いつものようにニコリと笑った。

「前にも言ったけど、僕の父は月の都を治める帝なんだ。宇佐美くんは幼少期からの僕の付き人でね、国を追放された僕に着いて来てくれたんだ。感謝してもしきれないよ」
「私は私のしたいようにしただけです。十五様に感謝されるようなことは何も」
「あ、また。様付けはやめてほしいって何度も言ってるだろう?」
「……申し訳ありません」

 月野と宇佐美の会話を聞いて、七尾は一人納得していた。そういう関係だったのなら、宇佐美が月野を絶対的に信頼しているのも頷ける。

「妹がいるんだけど、すごく可愛くてね。母は小さい頃に亡くなっている」
「え? でも月の住人は不老不死なんじゃ……?」
「ああ、母は普通の人間だから」
「ええっ!?」
「僕の不老不死は不完全。だから病気もするし怪我だってする。まぁ、それでも死ぬことはないんだけどね」

 苦笑いをこぼして、月野は懐から一通の手紙を取り出した。それは、こないだ月の都から届いたものである。

 狭い部屋にはカサカサという紙のこすれる音が大きく響く。二人は固唾を飲んで月野の言葉を待っていた。

「これは父の遣いの者から届いたものなんだけどね。気にしなくて大丈夫だから」

〝月野十五様〟から始まる真っ白い紙には、手本のような達筆な文字が並ぶ。硯からすった墨で黒々と書かれた文字は、どれも見惚れてしまうほど美しいものだった。だが、それはまるで機械が書いたように規則正しく並んでいるだけで、書き手の感情がまったく読み取れない。

「…………え」

 気付くと七尾の口からは声が漏れ出ていた。

 だって、最後の一文からまったく目が離せない。

 宇佐美は顔面蒼白で今にも倒れそうである。





〝拝啓 月野十五様

突然のお手紙申し訳ございません。
あなた様が国を出て行ってから何年の月日が過ぎたでしょう。こちらは相変わらずの生活です。

さて、この度はあなた様のお父上であり、我が月の都を統べる帝様、宵月(よいづき)様より伝言を預かりましたのでお伝えしたいと存じます。

『お前の罪を赦す』

宵月様は全ての罪を許し、更には十五様に帝様の跡を継いでほしいとおっしゃっております。

つきましては、八月十五日の夜、あなた様をお迎えに参りますのでよろしくお願い致します。


敬具〟