お皿が並んだテーブルを四人で囲んで手を合わせる。いい具合に焦げ目のついた楕円形のハンバーグの上には、ケチャップを使った宇佐美特製の赤いソースがかかっていた。

「美味いッス!! このジュワッと広がる肉汁がたまらないッス!!」
「うん、白いご飯と相性抜群だね。さすが宇佐美くんだ」
「……ありがとうございます」

 宇佐美は照れくさそうに答えると、月野の隣に座る優也の様子をチラリと伺う。優也は何も言わないが、目を輝かせながらぱくぱくと口に運んでいた。これは間違いなく美味しいということだろう。それを確認すると、宇佐美はほっと胸をなでおろした。

「ところで宇佐美さん! このソースで〝ご主人様へハート〟って書いてくれるサービスはないんスか?」
「は?」
「あ、美味しくなるおまじないでもオッケーなんスけど! 昔めっちゃ流行ったじゃないスか! 美味しくなぁれ、萌え萌えキュン☆ 的なやつ!」
「……ああ。アンタもしかしてメイド喫茶に行きたいの? それなら今すぐ逝かせて(・・・・)あげるわよ。本物の冥土喫茶(・・・・)に」
「すいませんでした謝りますからいつにも増したその氷のような視線はやめて下さい!!」
「ぶふっ」

 二人のやりとりを見ていた優也が吹き出した。

「ヤバい。なんか今のツボ。いつの時代の話だよそれ。つかハンバーグに文字って! 普通オムライスにケチャップでやるんじゃないの?」

 くつくつと笑い続ける優也を見て、三人は驚いたように顔を見合わせる。初めて見た優也の笑顔に、なんだか嬉しくなった。

「ゆーやん! 今日の夜は修学旅行気分で遊びまくろう! 枕投げする? それとも恋バナ?」
「いや、オレ一人で寝るし」
「そんなこと言わずに! 得意のマジックも披露するから!」
「お断りします」
「そんなハッキリ!?」
「うん」
「……なんかゆーやんオレの扱いひどくないッスか?」
「いや、流れ的にこういう方がいいのかなと思って」
「小学生なのに空気読みすぎ!! 恐ろしい子!!」

 優也は両腕をさすりながら大げさな反応を見せる七尾を見てケラケラと笑う。

「ごちそーさま! よしゆーやん! とりあえずマジックするから上の部屋に行こう!」
「うわっ、引っ張んなよ! つかそのゆーやんって呼ぶのやめろ!」
「マジですげーから! オレのマジックマジですげーから!」

 七尾が優也を無理やり引っ張りながら二階へとへ向かっていく。

 残された二人の間にはなんとなくピリピリとした空気が漂っていた。

「……あの、局長」
「ん?」
「さっきの手紙はやはり……」
「ああ、うん。父の遣い(・・・・)の者からだった」

 宇佐美はごくりと生唾を飲む。

「では……その……」
「大丈夫。宇佐美くんが気にするようなことは一つもないよ」
「ですが十五様!」
「その呼び方はやめてほしいな」
「……すみません」

 困ったような月野の笑顔を見て、宇佐美は思わず俯いた。

「つ……」
「宇佐美さぁ~ん!! 昔マジック用に買ったトランプってどこにやりましたっけ〜? わかります〜?」

 七尾の浮き足立った声が、緊張感で張り詰めた空気を切り裂く。

「ほら、呼んでるよ」

 月野はにっこりと笑みを浮かべる。宇佐美は不満気な表情を浮かべながらも、「奥の物置! 棚の下!」と叫ぶように言って二階へと向かった。