今日、最後の講義が終わって、学生がぞろぞろが出ていく講義室に残り、私はスマホでインターネットに公開された一次結果を見た。ずらっと並ぶ作品の題名とその横に記されたペンネームを一つ一つ目で追っていく。
 「絶対通っている」という自信もあった。だから期待と希望で胸がドキドキ弾む中、自分の名前を探した。でも指でスクロールして、もう画面が動かなくなった瞬間、一気に絶望と不安がこみ上げてきた。

 ――どうして自分の名前がないんだろう。

 何だか信じられなくて、私はまた最初から自分の名前を探した。でもやはりどこにもない。
 そこでやっと自分は一次にも通らなかったのだと理解した。
 私は両肘を机につけて、祈るようにスマホをぎゅっと握りしめたまま、その手に頭を預けた。一次予選も通過しなかった私には、もう翔奏から表彰状を受け取るという夢が叶わなくなったのだ。
 そもそも翔奏に、私の小説すら読んでもらえない。
 ちゃんと原稿は届いたのだろうかと疑いたくもなった。でもそんなことを考えても、仕方がない。一次結果に私がいないことには変わりないのだ。
 作品が評価されなかったことよりも、翔奏に逢えないことの方がショックだった。こんなんだから、いつまでたっても作家になれないのだろうか。
 夢見て、どきどきしていた私が馬鹿みたいだ。
 自信はあったとはいえ、自惚れ過ぎていた自分が恥ずかしい。
 どのくらいそうしていたか分からない。
 ただ茫然と俯いたまま、自分の愚直さをかみしめることしかできなかった。
 チャイムがなり、はっとして時計を見ると、夕方の五時を回ろうとしていた。
 一人取り残されていた講義室を後にした。
 幾人かとの学生とすれ違いながら、私はもみじが彩る外を見ながら廊下を歩いた。
 私ももう帰ろう。
 心の中でそっと呟いて、私は中庭を歩きながらスマホを起動した。
 作品を応募したことを知っているのは、智歌先輩だけだ。
 友達の中で唯一私が小説をかいていることを知っている千歳(ちとせ)さんにもなんだか恥ずかしくて、応募したことを言っていない。
 千歳さん以外の友人には私は考古学が好きで、その勉強に勤しんでいる学生としか映っていないだろう。
 だからこの悲しみや絶望を伝えられるのは、先輩しかいなかった。でも期待していただけに、その先輩にすらこの結果を伝えるのも億劫で仕方がない。