中に入れるフィギュアが決まったら、水に強い接着剤で台座に固定させる。この台座はスポンジ、小さいサイズだとペットボトルの蓋でも代用出来るそうだ。ホント、夏休みの宿題にピッタリだなこれ。俺も小学生の時に知ってたらやったのになぁ。そしたら最終日の終わらない宿題地獄も少しは楽になってただろうに。あの地獄を味合わないためにも、夏休みの宿題は計画的に進めることを全国の小学生に進言したい。経験者は語る、だ。

 おっと、思考がすっかり逸れてしまった。ちゃんと姉ちゃんと真田さんのサポートに集中しないと。俺は慌てて周りの様子を確認する。

 液体に入れるラメパウダーやホログラムを真剣に選んでいる真田さんの隣には、彼の横顔をチラチラと盗み見るトオルさんの姿があった。……もしかして何か取りたい物があるけど真田さんが怖くて言い出せないのだろうか。トオルさん、百合の花が似合いそうな清楚系美人だもんなぁ。ヤンキーに話かけるのは怖いよなぁ。真田さんも話せば良い人なんだけど、損するタイプだ。

「あ、あの!!」

 ごちゃごちゃ考えているうちに、トオルさんが大きな声を出した。

「……は、い?」

 驚いた真田さんが気の抜けたような返事をする。キッと視線を合わせるように上を向いたトオルさんはそのまま続ける。

「そっ、そのピアス可愛いですね!!」
「えっ?」

 真田さんは自分の耳たぶを触る。

「あ、これッスか? これは俺……っじゃなくて! サ、サナさんに貰ったもので!」
「やっぱり!!」

 その答えに、トオルさんはパッと顔を輝かせた。

「デザインがサナさんっぽいなって思ったんです!! それレジンですよね?」
「そうッス。スクエアパーツに色付けたレジン液を入れて硬化させただけだから簡単……なんスよね? サナさん」
「ん? ああ、そうそうカンタンよ」
「さすがサナさん手先が器用です! グラデーションが綺麗ですねぇ」

 大きな目でじっと見られる事に照れたのか、真田さんはふいと顔を逸らした。

「……てか、トオルさんもサナさんのこと知ってたんスね」
「そ、そうです! ほら、お兄ちゃんがCreに登録してるから、私もよくそのサイト見てて。サナさんってすごく可愛いもの作るな好きだなーって思ってたんです!!」

 トオルさんは姉ちゃんを見ながら熱弁する。しかし、それは何やら難しい顔をしたツカサさんによって遮られた。

「ちょっといいですか樹さん。ピアスをサナさんに貰ったって事は……お二人はもしかしてそういう関係……?」
「ちょっとお兄ちゃん!?」
「いいえ! 違います!」

 姉ちゃんは全力で否定するが、ツカサさんの疑念は晴れない。

「そもそもお二人はどういった経緯で知り合ったんです?」
「それは……私の実家が喫茶店をやってるんですけど、彼はうちのお店の常連なんです。ハンドメイドに興味があるって聞いて仲良くなって」
「喫茶店? じゃあサナさんもそこで働いてるんですか?」
「はい。良かったら今度いらして下さいね」
「是非とも伺わせていただきます!!」

 ツカサさんの目が輝いた。……あれ、この感じ。もしかしてツカサさん、姉ちゃんに気があるんじゃないだろうか。ツカサさんは姉ちゃんがサナさんだと思ってるんだからその可能性は有り得るよな? ネットで仲良くしてたんだし。

 ……いや、ややこしくなりそうなのでこの問題は一旦置いておこう。

 隣では、八神さんが右手で口元を覆いながら何かを考えているようだった。ツカサさんとトオルさんを見比べ小さく首を捻るが、すぐさま何事もなかったかのように作業に戻る。え……なんだ今の意味深な行動。気になるけど、さすがに今聞くわけにはいかないので後で確認してみよう。