「夏をテーマにするのかぁ。どれを選べばいいか迷っちゃうなぁ~」

 並べられたパーツを物珍しそうに見ながら八神さんは言った。涼しい環境のおかげでHPはなんとか回復したらしい。

「皆さんはこういうの作るの得意なんですか?」

 そのまま上手い具合に話を振る。

「え? ああ、えっと……そうですね。なんていうかその、はい」

 ツカサさんは切れ長の目でチラリと妹の方を見てからしどろもどろに答えた。まだ緊張しているのだろうか。

「そうなんですか。僕はこういった物を作るのは初めてでして。なんせ今日は()の宿題のために一緒に参加したんですよ。ね、ケントくん」

 みんなの視線が俺に集中する。下から上に目を動かすと、各々の頭に疑問符が浮かんだのが手に取るように分かった。小学生の自由研究なら分かるけど、この人高校生くらいだよね? と顔に書いてある。俺もそう思う。

 隣では姉ちゃんがぷるぷると震えながら必死に笑いを堪えていた。腹立たしい。くそ、八神さんめ!! 高校生の宿題と小学生の宿題を同レベルで考えるなよ!! もっと違う参加理由にしてくれ!!

「あ、申し遅れましたが僕は八神と言います。こっちは甥の賢斗」
「……どーぞよろしく」
「っ、そうなんですね。実は私たちハンドメイドが趣味なんです。いつもはネットでやり取りしてるんですけど、今日はみんなで作品を作りたくて参加したんですよ。私はサナと申します」
「樹ッス」
「ツカサです」
「ツカサの妹で、トオルといいます」

 身バレ防止のためか、みんな本名は明かしていないようだ。

「ハンドメイドが趣味なんですか? それは心強い。良かったら色々と教えてくださいね」
「いえいえ。俺たちで良ければ気軽に聞いて下さい」

 ツカサさんは人当たりの良さそうな笑みを浮かべた。隣に座っている真田さんは緊張しているのか顔が強張(こわば)っている。見た目がヤンキー風なので、そんな顔をされると迫力が増すからやめてほしい。

「ハンドメイドって、普段はどんな物を作ってるんですか?」

 並べられたパーツを見ながら八神さんが言った。

「私はアクセサリーが多いですかね。可愛いものを作るのが好きなんです」

 事前に真田さんから聞いた情報をフルに活用して受け答えをする姉のコミュ力は接客業の賜物だろう。

「私たちが使ってるアプリでは作った物を販売出来るんですけど、ツカサさんって超人気の作家さんなんですよ! 私も作品のファンでずっと憧れてたんです! だから今日お会い出来るのがとっても楽しみで!」
「わぁ……ありがとうございます」

 姉ちゃんの前に座っていたトオルさんが頭を下げる。

「え?」
「あ、兄の! 兄の作品のファンって言ってくれて嬉しかったので……ありがとうございます」

 トオルさんは照れているのか、頬を赤くしながら言った。

「いえいえ。本当のことだもの。ね、ツカサさん!」

 ツカサさんは姉ちゃんの問いかけに答えず、ぼーっとした様子で姉の顔ばかり見ている。

「……ツカサさん?」
「えっ? あ、ハイ! いえ! 俺なんかのは大したことないですから! ていうか俺もサナさんのファンです!! ピアスが一番好きです!」
「えっと、ありがとうございます」

 姉は苦笑いを浮かべながら答えた。視界の端に物凄く嬉しくてニヤけそうなのを我慢して、とんでもなく破壊力のある顔になっている真田さんが映ったが無視しようと思う。

 俺はパーツが入ったケースから小さいスイカのフィギュアを手に取った。

 それにしても、ドッキリで騙す仕掛け人っていつもこんな気持ちなんだろうか。罪悪感からなのか、ものすごく居心地が悪い。

「あ、スイカも夏らしくていいですね」

 トオルさんが俺の手元を見ながら言った。

「え? ああ。なんとなく手に取ったんですけど、これ見た時思い出したんですよね。家族で海行ってスイカ割りしたなって。小さい頃に一回だけだけど」

 うちは喫茶店をやっているので、長期休暇中に家族で旅行や遊びに出掛けるなんてことはほぼなかった。だけど唯一、俺が小学生になったかならないかの時、家族で海に遊びに行ったことがある。家族……生きている母親と一緒に行った最初で最後の旅行だ。そこでやったスイカ割りは姉や俺の力では割れなくて、最終的に親父が割ったことをよく覚えている。

「そうやってぱっと頭に浮かんだもので作るのも楽しいと思います。すごく考えて作った物より、そっちの方が案外上手くいったりするし」
「なるほど」
「それに、思い出を形にするって素敵だと思いますよ」
「……ありがとう、ございます」

 なんだか照れくさくなってポリポリと頬をかいていると、隣から悩んだように唸り声を上げていた八神さんが口を挟んできた。

「うーん。夏って聞いてぱっと浮かんだのはエアコンの効いた部屋でサマーウォーズを読んでる自分の姿なんだけど……これじゃダメかな?」

 ダメに決まってんだろこの活字中毒。「あっ、時をかける少女もいいなぁ」いや、本の種類の問題じゃなくて。

「ええと、確かに二冊とも夏になると読みたくなりますよねぇ」

 苦笑いを浮かべながらも話を合わせてくれるトオルさんは心優しい。マイペースな八神さんは楽しそうにパーツを選び始めた。今の話の流れで彼がどんなスノードームを作るのかみんな興味がわいたらしく、八神さんが何を選ぶのか様子を伺っている。

 あー、これだから八神さんは……。俺は短く溜息をついた。