「いいの……?」
 急に自信がなくなって、由梨は俯いてしまう。テレビの前に横に並んで座っていた白井の肘が、とんと由梨の脇腹に当たる。
「オレだって、緊張しないわけじゃないし。でも当たり前だろ? ちゃんとしなきゃって思ってるから」
「う、うん……」
「オレだって初めてだから。彼女の親に会うとか」

 先回りして言われたことで、由梨はいっそう恥ずかしくなる。別に白井の昔の人に嫉妬したわけではないけれど。
「で、何着てけばいい?」
「普段通りでいいんだよ。わたしもこの格好で行くし」



 おそろいのようにジーンズの上にダウンジャケットを羽織った格好のふたりをじっくり観察した後、母親は予約してあるからとロータリーの向こうのしゃぶしゃぶの店に連れていってくれた。

「今日はワタシのおごりだよ」
「いえ、そんな……」
「いいんだよ。この子には何もしてあげてないから。こういうときくらいは」
 しきりに恐縮する白井の隣で、由梨はぱくぱく肉を口に入れていく。なにしろここは食べ放題、しっかり元を取らねば。

「この子たくさん食べるだろ? あんた大丈夫かい?」
「由梨さんのたくさん食べるところが好きです」
 ぶほっとむせそうになって由梨は涙目になる。何を言ってるんだろう。

「食費かかるよ?」
「しっかり働きます」
 いや、いつもいつもこんなに食べるわけではないし。普段は粗食で我慢できるし。
「いい娘だろ。ワタシの育て方が良かったからね」
「はい」
 もうどうでもいいや。由梨はひたすら肉に集中した。

 帰り際、店を出て階段を下りるとき、いつもの癖でふたりは手をつないでいた。「まだ、あげたわけじゃないんだから!」と母親につないだ手をチョップされて驚いた。

「おもしろいお母さんすね」
「ちゃらんぽらんなんだよ」
 母と別れた後、お肉で重たいお腹をさすりながら白井のクルマが停めてある駐車場まで歩いた。しっかり由梨の手を握り直しながら彼は笑う。
「由梨ちゃん、大事にされてるよ」
「そ、そうかな」
 本当に? 実感はなかったけれど、白井がそう言ってくれたことが嬉しかった。