元旦には、母親と食事に行く約束をしていた。
「カレシを連れてきな」
 母にそう脅されて、由梨は長いこと悩んだ。
「バアさんには会わせたくせにどうしてワタシはまだなのさ」
 それもそうだ。一応この人が母親なのだから。

 クリスマスは一緒にすごせなかったので、年越しは白井の部屋でふたりで迎えた。元旦はのんびりすごして、二日に初詣がてら白井の実家に向かうことになっていた。
 白井の母親とは、彼が実家に荷物を取りに行くのに付き合ったとき挨拶したことがある。父親と会うのは初めてだ。年が明ける前から緊張していた由梨だったが、自分の方が先に彼に試練を与えなければならないことになって、その方がずっとハードルが高かった。

「あのね……」
「うん?」
 最近になってようやく敬語をやめてくれた白井は、きちんとテレビの画面から視線をはずして由梨の顔を見る。
「あの……」
「なんか頼み事?」
 すっかり見抜かれている。少し頬を染めながら、由梨は小さな声で話した。

「夕方、母とご飯に行く約束してるでしょう?」
「五時に駅前だよね。三十分前に出る?」
「うん、そうだね」
「何着てけばいい? ジーンズじゃだらしない?」
「……え?」
「え?」
 間抜けな顔でしばらく見つめ合う。あれ? と由梨は思う。

「えと、わたしはひとりで行くつもりだったけど」
 はあ? と白井は眉を寄せる。
「ひどいっすよ、なんでオレを置いてくっすか」
 また急に敬語に戻って白井は訴える。
「由梨ちゃんがオレの実家に来てくれるなら、オレも今日お母さんに挨拶するつもりだった」
「い、いいの?」
「当たり前」

 言い切られて、由梨はますます頬が火照るのを感じてしまう。そういうものなのだろうか。今まで上手に人と付き合ったことのない由梨にはわからない。こんなふうに受け入れてもらってしまっていいのだろうか。あんな親なのに。
 白井の家はとてもマトモな家族のようだったから、マトモな家庭で育っていない由梨は気後れしてしまう。以前祖母がつぶやいた「躾もできてない子」という言葉を思い出してしまう。