上機嫌で家に帰ると弟の友だちが来ているようだった。
「一緒に勉強するんですってよ」

 母親に頼まれて、美紀は紅茶とお菓子を持って二階への階段を上る。弟の部屋のドアをノックすると、すぐに弟が顔を覗かせた。
「なんだ、姉ちゃんか」
「ヘンな本見てないよね」
「ばーか。宿題やってんだよ」
 気をつけながらお盆をローテーブルに置き、美紀はそこにいる弟の友人に目を向けた。

「こんにちは」
「こんにちは。お邪魔してます」
 まったく予想に反した。今まで弟が連れてきた汗臭くぎゃあぎゃあうるさい高校生男子とは百八十度違う。
「同じクラスの子?」
「うんにゃ、となり。志望校同じでさ、進路指導室でつい昨日仲良くなったんだ。な?」
「はい」
 にこっと彼は微笑む。
「ふーん」
 ティーカップとクッキーのお皿を並べながら美紀は相槌を打つ。

「トイレ行ってくる」
「うん」
 弟がドアを閉めて部屋を出ていく。美紀はその場に座りなおして彼の顔を改めて見た。
「お茶どうぞ」
「はい。ありがとうございます」

 見れば見るほど珍しいタイプだ。きちんと正座して姿勢を正してソーサーを持ち上げる。
「わ、良い匂いですね、このお茶。葉っぱですよね」
「母が好きだから。苦手かな」
「大丈夫です」
 にこっと笑ってカップに口を付ける所作は流れるようだ。

「躾の厳しい家の子?」
「え? いや、そんなことないですけど」
 きょとんと眼を丸くして彼はソーサーを戻す。
「普通の家ですよ」
 伏し目がちになって笑う顔が寂しそうにも見える。一方ですべすべの頬がやわらかそうで、由梨のほっぺたみたいだ。触りたいかもしれない。

「なんだよ、まだいたのかよ」
 戻ってきた弟が意外そうに姉を見る。
「勉強すんだからあっち行って」
「お姉さまに向かってその口の利き方はなんですか」
「勉強のひとつも教えてから言ってくれ」
 姉弟のごく普通のコミュニケーションをしていたら彼にくすりと笑われた。

「ほら、もう邪魔だからあっち行って」
「はいはい。頑張ってね」
 最後に彼に向かって言うと、ぺこりと会釈してくれた。可愛いかもしれない。お盆を持って階段を下りながら美紀は考えてしまう。あの子、これからちょくちょく来るといいな。