六時を回るとお客が次々やって来たので、ふたりは早々に帰ることにした。夜勤明けの由梨はともかく白井は明日も朝勤なのだし。

 秋も深まりこの時刻で外はもう暗い。大通りを手をつないで歩きながら、由梨はそうだ、とつないだ手を揺らした。
「この間はおばあちゃんちに行ってくれてありがとう。おばあちゃん嬉しかったみたいでまたおいでって電話があったんだ」
「そうっすか。お母さんには挨拶しなくていいっすか?」
「……あの人はいいよ」

 そっけなく返事をして考える。自分だって、白井の実家に行く覚悟を決めなければ。優しい彼は待ってくれているのだろうから。……と、思ったのに。

「ここでいいよ」
 いつもの交差点で手を離そうとしたのに。むんずと手を掴まれて由梨はびっくりする。
「由梨ちゃん」
「はい」
 目を上げると白井は据わった目で由梨の瞳を覗き込んでくる。
「前々から気になってしょうがなかったんですけど」
 え、何……。頬を強張らせて由梨は聞き入る。
「由梨ちゃんは、オレと肉とどっちが好きなんすか!?」

 酔っ払い! 声もなく愕然とする由梨の肩を押えて白井は真剣だ。
「そ、そんなの決まってるじゃん」
「肉ですか? やっぱり肉ですか!」
「違う! 好きだから!」
 わけのわからない勢いに押されて言い返すと、その場でぎゅっと抱きしめられた。
「オレも好きです」
 ちょっと待って、ここ歩道。まだまだ人通りのある時間帯だ。ちょうど自転車で通りすぎた女子高生にじいっと見られた。恥ずかしい!

「よ、酔っ払い」
 放せ、バカ。引きはがそうともがいてみるけど離れやしない。
「キスするまで放しません」
 むりむりむりむり。心の中でぶんぶんと首を横に振っていた由梨だけど。本当は。ムリなんかじゃない。ちゃんと気持ちはあるから。由梨だって同じだから。

 かあっと頬は熱くなるのに首筋は震える。どうしよう、どうしよう。喉から何か飛び出そう。
「……」
 緊張しすぎて感覚のない手でどうにか合図する。腕の力を緩めてもらう。恥ずかしくて顔が見れない。かといって目を閉じてしまうのも怖かったけど、震える目蓋を伏せる。顎を上向ける。

 ぴりっと相手も緊張したのがわかった。だって、気持ちは同じだから。頬に指先の熱さを感じる。ドキドキして逃げ出したくなる。でも逃げない。大丈夫。好きだから。