この状況がわからないわけじゃない。だから固まる。顎を引いてしまう。これじゃあ駄目なのに。体が竦んで動かない。緊張してすぼめた肩を抱き寄せられた。ぎゅっとされて由梨は目をぱちぱちする。強張ったからだを宥めるように背中をぽんぽんされて、泣きたくなった。駄目だなあ。

 ゴンドラはいつの間にか下降を始めている。伏せた視線の先に、大型専用の駐車場へ観光バスが連なって入ってくるのが見えた。もうすぐお昼時だから観光客たちはここで食事をとるのだろう。思ったら、由梨のお腹もぐうっと鳴った。

「……っ」
 恥ずかしくてとっさに彼の背中に腕を回してしがみついてしまう。顔を見れない。目を閉じて顔を埋めていると、由梨の腕の力に合わせるようにぎゅうっとされた。いつでもそうなんだ。彼は由梨に合わせてくれる。

 ゴンドラ乗り場の屋根が近づいてきたから、由梨は恥ずかしいのを我慢して体を起こした。前髪を直すふりをして俯いていると、手を握られた。
「降りたら昼メシ行きましょう」
「うん……」
 支えてもらってゴンドラを降りる。白い鉄筋の階段を下りながらスカートの裾が気になってしまう。

「ゆっくりでいいっすよ」
 歩みを合わせてくれる手が嬉しい。手のひらが熱くて指先に小さな心臓ができたみたい。脈打って跳ねてしまわないように力を込める。ありがとう。頑張るから待っててね――。




 ……と、思ったのに。
「少しでいいんでたまには飲みに行きましょう」
 まあ、たまにはと思い、白井の朝勤の後待ち合わせて、ふたりの自宅の中間地点にある小さな焼き鳥屋さんに行った。
 五時の開店と同時に入ってがらがらのカウンター席に並んで腰かけ、ねぎまと軟骨をつまみにビールを飲む。そういえばここの焼き鳥が美味しいと睦子が話していた気がする。なるほど、チェーンの居酒屋のより肉が大きくぷりぷりして美味しい。

 由梨は最初の一口は気分で流し込んだものの、その後は焼き鳥と枝豆をつまみながら生ビールをちびちび飲む。その間に白井はジョッキを二杯空けていた。強いのは知っているし、まあ、いいだろう。