「ああーっ」
 ほぼ同時に声を上げていた。視界を斜めに光の筋が大きくよぎった。見たことのない大きな流れ星だった。

「見た?」
「見た!」
 大興奮だった。ぎゅっと手を握り合って顔を見合わせる。
「美紀ちゃん、連れてきてくれてありがとう」
 瞳をきらきらさせて由梨が笑う。泣きそうになりながら美紀はなんとか堪える。
「あたしだって、由梨が付き合ってくれなかったら、来てなかった」

 相手が自分を映す鏡であるなら、由梨は最高の鏡だと思った。誤解も思惑も歪みもなく、素直に気持ちを映し出してくれる。欲しいのはそういうものだ。ただそのままを受け入れてもらいたいだけなんだ。

 満足して車中に戻り、麓に下りてコンビニに立ち寄った。あたたかいコーヒーを飲む。
「あったまるねえ」
「うん」
 欲しいのは、こんなふうな少しのあたたかさ。たいしたものは求めていない。なのに距離感がわからなくて傷ついたり傷つけたりする。傷つきたくない自分たちは、憶病になって大事な気持ちすら見えなくなったりする。手を伸ばせば触れ返してくれる、指が近くにあるはずでも。

 それに気づきさえすれば、一歩の距離を縮めることができるだろうか。それとも踏み出すことが肝心で、勇気がなければ触れることさえできないのだろうか。

「ねーえ、美紀ちゃん。お願い事した?」
「あーって叫んでるだけで、そんな暇なかったでしょ」
「ダメだねえ。わたしたち」
「ほんとだよ。宝くじ当たりますようにってお願いしたかったのに」
 まあ、いいよと美紀は笑う。
「また行こうね」
「うん」

 癒されるものならたくさんある。友人のぬくもりだったり、家族のなんでもない気遣いだったり。同僚の意外な優しさだったり。偶然目にした流れ星だったり。道沿いの垣根の花だったり。そんなものから少しの勇気をもらって歩き出す。いつか出会える人に向かって、傷つく心も差し出せるように。