夜も更けた時間帯でファミレスの窓から見える国道の交通量も落ち着いていた。
「ねえ、ドライブ行こうか」
「今から?」
「うん。達磨山。星が見たくなっちゃった」
「わたしは乗ってるだけだからいいけど、美紀ちゃん大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。明日休みだよ?」

 笑って会計をして店を出る。夜空を見上げる。
「ほら、天気いいし。月もそんなに明るくない。流れ星見れるよ」
「見たい」
「行こう、行こう」
 妙なテンションになってクルマに乗り込む。どうでもいいことを話しながらクルマを走らせる。

 国道から県道に入り、細い山道へ。以前にも何度かこうして由梨と来たことがある。久し振りでわくわくする。
 カーブをすぎて道路が少し開ける。月明かりが差して視界も広くなる。そこで美紀は慌ててブレーキを踏んだ。由梨もびっくりして、前方を見ている。

 車道の真ん中に角のあるシカが佇んでいた。シルエットだけで細部はわからない。シカの方も驚いて竦んでいるように見えた。すぐに車道の脇の木立の中に駆け込んでいく。
「びっくりしたあ」
「うん。大丈夫?」
 美紀はドキドキしながらクルマを発進させる。
「ムササビはよく見るけどシカは初めてだね」

 驚きがすぎたら笑いが込み上げてきた。また楽しい気分になってくる。ほどなく目的の展望台に着いた。デートスポットだが今日は他に車はなかった。得体の知れない獣の鳴き声が響く中、首を曲げて上を見る。
「すごいねえ」
「うん」
 満点の星空というやつだ。見えないだけで実はこれだけの星々があることにびっくりする。場所を変えるだけでこんなにも、見えるようになるのだ。

「流れ星、見たいねえ」
「うん」
 段々と首が痛くて見上げているのもつらくなる。それでもじっと待っていたら、
「あ」
「見た?」
「見た!」
 視界の端をすうっと小さく星が流れた。
「もっと大きいの見たい」
「こうやって気を取られてる間に見逃しちゃうかも」
「そうだ」

 またじっと夜空に注目する。いつの間にか由梨が美紀の手をしっかり握っていた。あたたかい。山の夜は冷えるから猶更だ。息がかすかに白い。いろいろなことを思い出す。これからの、いろいろなことを考える。