由梨と白井の交際は順調なようだ。ふたりで少し離れた観光施設まで出かけて、新しく併設された観覧車に乗ってきたそうだ。ようやくデートらしいデートの話が聞けて美紀はほっとした。一方で寂しくもなる。

『観覧車好きですか?』
『あんまり高いとビビる』
 夜になると虫の音が響くようになって随分経つ。朝晩は大分肌寒い。
『寒くなってきましたね』
『人肌恋しい季節だな』

 らしくない表現の字面を見たとき、急速に心が冷えるのを感じた。人肌恋しい……気持ち悪いと思った。よりどころだったものが急に生臭くなってしまった。裏切られた気分。

 どうして既婚者の彼とのやり取りに夢中になれたのか。安心したのか。彼が既婚者だったからに他ならない。父の浮気を目の当たりにしていた美紀にとって不倫はとんでもない罪悪で、それを自分が犯すはずもない。だから安心だったのだ。気持ちが傾いたところで進むことなんてない。由梨に恥じるようなことを自分はしない。だから安心して心を晒せたのに。

 くだらない。ケータイを投げ出して美紀は頭を抱えた。




「……それでね、おばあちゃん、白井くん大きいねって」
「へえ」
「神棚の掃除してもらって喜んでた」
「いい人だなあ」
「ね」
 パフェを食べていた由梨は口元にチョコソースを付けてにこっと笑う。可愛いヤツめ。ナプキンを渡すと由梨は「へへっ」と笑って口元を拭きコーヒーを飲んだ。

「同じ班ならいいのにね。なかなか時間合わないでしょ」
「ううん。これでちょうどいいよ。あんまりベタベタするのもさ」
「そうだね」
「美紀ちゃんとも遊びたいし」
 泣きそうになった。由梨は可愛い。大好きだ。

「美紀ちゃん、好きな人できた?」
 由梨はまっすぐ訊いてくる。
「ううん」
「メールの人は?」
「もう、やめた」
 コーヒーをこくんと飲んで由梨は笑った。
「そっか」