バナナはバナナとは思えない形状で、だけどバナナの香りがものすごいクリームみたいになっていた。マシュマロと合わせると濃厚なプリンと生クリームをトッピングしたみたいな感じだ。

「甘いですね」
「うん。アイスコーヒー飲もうか」
 ブラックの缶コーヒーをもらって味わう。高級なデザートを食しているようだ。満足してそのまま吉田と話していたら、年配のおばさんのひとりが美紀に近づいてきた。

「ねえねえ、崎谷くんと話してあげてくれない?」
 缶ビールを飲んでいる男性たちと、鉄板の傍らで、肉を食べている黒縁眼鏡の男の子を指差して言う。四月に入社してきた新入社員だ。今は研修という形で各フロアを転々としている。一週間前からおばさんたちに交って作業していて、あれこれかまわれているようだった。

「若者同士仲良くしてあげて」
 どうしてオバさんオジさんは「若者同士」を引きあわせようとするのだろう。不快に思ったけれどここでそんな態度は出せない。美紀は言われた通り崎谷に近づき話しかけた。

「食べてますか?」
 崎谷は太めの黒いフレームがずれそうな勢いで振り返り、びっくりした様子で頷いた。
「あ、うん……」
「暑いですね」
「うん……」
「……」

 話が続かない。が、話すという任務は実行したのだから良いだろう。後退さりながら適当な言葉を探していた美紀に、またまた余計な声がかかる。
「こいつカノジョもいないひとり者だってよ。仲良くしてやってよ」
 フロア作業員ではないが製品運搬のため頻繁に顔を合わせるオジさん社員が、タバコをふかしながら続ける。
「今度メシでも行ってさ」

 イライラした。
「連絡先交換しときなさいよ」
 オバさん社員がはしゃいでせっつく。自分のことでもないのに。普段の職場とは違う開放的な空気がそうさせるのだろうとは思うが、うざい。だけど大人な美紀はケータイを取り出す。

「いいの?」
 崎谷は目を丸くしている。うるさい。全部こいつのせいじゃないか。教えるだけだ、連絡が来たところで適当に流せばいい。感情を殺している美紀に気づかず崎谷もケータイを取り出して突き合わせる。そこへ、三台目が現れた。

「じゃあ、俺も俺も」
 驚いた。黒いケータイを持っているのは工藤だ。