早朝だがもう昼間みたいな明るさだ。快晴で日差しが眩しい。たまに犬の散歩中の人とすれ違う。夜通し遊んで不健康極まりないことが申し訳なくなってくる。

 口数のないまま大通りを歩く。フライドチキンの店を通りすぎ一つ目の交差点で、由梨が先に声を上げた。
「白井くんち、ここを曲がるんだよね」
「由梨ちゃんちへの角まで行くっす」
「明るいしひとりで大丈夫だよ」
 断ったのに白井は無言で進んでいく。
「……」

 由梨が後から歩いていくと、白井はぼそぼそ話し始めた。
「由梨ちゃんは小田さんが好きだって」
「え……」
「相談されたんです。どうしようって」
 血の気が引く心地がして由梨は俯く。朝からこんなに暑いのに指先が冷たくなっていくのを感じる。

「……聞かないんすか」
「何を?」
「どんなふうに言ってたか」
「聞きたくないし」
 良いことであるわけない。知らない方がいいに決まってる。白井のスニーカーのかかとを見ながらまた無言のまま歩いた。

 かかとが揃って止まる。由梨も立ち止まって顔を上げると、目の前に白井のTシャツの胸元が迫っていた。
「あんたはわかってない」
 肩に両腕の重みを感じて何も言えなかった。
「あんたみたいのに好かれてあわよくばと思わない男はいない」
「…………」

 凍りついていた喉に熱が戻るのに時間はかからなかった。
 手のひらで白井の胸を押し戻しながら由梨は声を張り上げる。
「あわよくば、なんてない」
「でも小田さんは悩んでた」
 今度は白井の方が俯いたまま低く言葉を落とす。
「あの人は決められないだけだよ」
 ぽつりと由梨も答える。だから由梨の方から押せば「あわよくば」とでも思っているのだろうか。

「どうして小田さんなんだよ」
「わかんないよ」
 だらんと腕を垂らして由梨は答える。わからないよ、自分でもぐちゃぐちゃなんだから。できるのは、せめて二度と暴走しないようにすることだけ。

 日差しが上って街路樹で唐突に蝉が泣き出す。びっくりして夢から醒めたみたいだった。陰りを削ぎ落とした丸い目で白井は由梨を見つめる。きっと由梨も同じような目をしてるだろう。

「由梨ちゃんはバカっす」
「うん。自分でもそう思うけど……」
「オレもバカっす」
 言い捨てて、ちょうど信号が青に変わった横断歩道を渡って白井は通りの向こうへと走って行ってしまった。