「へんなところで行動力あるんだから」
「美紀ちゃあん……」
「おバカ。時間が解決するって言ったじゃん」
「もうぐちゃぐちゃだよう……」
 ファミレスのテーブルに突っ伏して嘆く由梨の目の前で美紀は盛大にため息を吐く。それから怖い顔になって由梨の名前を呼んだ。

「由梨。わかってると思うけど」
「わかってる」
 これには由梨も情けない顔を引き締めて決意を伝える。都合のいい女にだけはならない。絶対に。

「もうさ、心配だよ。動く前にあたしに話してよ。絶対だよ」
「うん」
 頷いて由梨はドリンクバーにジュースを取りに行った。美紀もついて来る。席に座りなおしてから美紀はまた怖い顔になった。

「にしても小田くんってさ」
「うん」
「ロクなもんじゃないよ」
「……うん」
 でも好きだ。好きで胸が苦しい。小田の返事を待ったところできっと答えはもらえない。だけど今すぐこの気持ちをそぎ落とすのも無理だ。美紀が言う通り時間が解決してくれるのを待つのが正解だ。

「お盆休みはたくさん遊ぼう」
「そうだね」
 美紀の気持ちがありがたくて由梨は笑った。




 職場で顔を合わせても小田の態度に取り立てて変化はなかった。由梨も今まで以上に平常心を心掛けて仕事に集中する。彼には職場でしか会わないのだから仕事に集中すればそれでいいのだ。

 引き継ぎの時間やクリーンタイムにもなるべく近寄らないようにした。睦子や絵里香と会話しているのを見るとやっぱり気になる。磁力に逆らうのにひたすら精神を消耗した。

 だからお盆の長い休暇はありがたかった。休暇中に親睦会をやろうと睦子が提案したときにはひやりとしたが、帰省するメンバーも多いのだから計画自体立ち消えた。
 ほっとしたのも束の間、地元組だけで飲み会をやろうと睦子は言い出した。当然由梨も誘われた。当然メンバーには小田だっている。

「由梨ちゃんは行かないですか?」
 何を考えているのかわからない調子で白井に訊かれて迷ったけど。
「行きましょうよ」
 背中を押されて覚悟を決めた。あまり避け続けるのもよくないだろう。




 休暇に入ってすぐ母と墓参りにでかけた。最近になって新しく整備された町営グラウンドの裏手にある狭い墓地だ。既に誰かが来たらしく墓石は綺麗だったし花も新しかった。暑いだろうと水をかけ、線香だけあげて手を合わせた。
その後ふたりでうどん屋で昼食を食べた。

「仕事どう? きつくない?」
「何がキツイもんかね。それより料理長が気持ち悪いオヤジでさ。何かとワタシに残り物をくれるんだよ」
「ええ?」