「お互い仕事の愚痴ばっかでさ。カノジョはもう辞めたいとかって言うし」
「保母さんだっけ」
「うん。自分でなりたくて、頑張って勉強してなった職業だろうに。だから、辞めるのは簡単だけどもう少し頑張りなよって僕が言うと、すごく怒るんだ」
「……」
「頑張れしか言わないって。じゃあなんて言えばいいんだろうね?」
「うーん……」

「わがままなんだよね」
「小田くんが優しいからじゃない?」
「そうかな」
「好きだから甘えるんだよ」
「僕なんかさ、そんなに大きな男じゃないんだけどな」
「確かに」
「……言うようになったよね。由梨ちゃんも」

 小さな点が夜空に上がって光が弾けた。まんまるに飛び散った星がキラキラと色とりどりに光りながら鱗粉のように下りていく。その合間合間にスマイルやハート型の花火が上がった。

「あれ?」
 思わずふたりで声を上げる。ハートマークが下を向いてしまってる。
「あるんだね、こういうことも」
 由梨は時間を気にして確認する。そろそろ戻らねば。
「教えてくれてありがとう」
「うん。あと少し頑張ろうか」




 夜勤のメンバーが出勤する頃、白井が今いる人数分のじゃがバターを抱えてきた。絵里香は大はしゃぎで温かいうちに食べたいと主張した。中勤の勤務時間の後みんなで食べてから帰ることにした。

「塩は?」
「あるよ」
 わざわざスーパーかコンビニにでも寄ったのか、白井は封の開いてない食塩の瓶を取り出す。
「気が利くなあ。白井くん」
 小田は感心したようにつぶやく。ほのかにまだ温かいじゃがバターは最高だった。
「美味しい」
 大きくすくい上げて由梨が頬張ると、
「喉詰まらせないでくださいよ」
 もう慣れた様子の白井に注意された。

「花火見た?」
「見てたから遅くなっちゃいました」
「ラストがいちばんすごいもんね」
「あれウケなかった? ハートが逆さなの」
 うっかり口をはさんだ小田は「どこで見たのさ?」と絵里香に突っ込まれている。由梨は見て見ぬ振りでじゃがバターを口に運ぶ。
「ああ、でも。その後きれいなヤツが見れましたよ。赤くて大きな」
「ハート?」
「かわいかったですよ」
 白井らしからぬ感想に思えて由梨は目をぱちぱちしてしまう。

「いいなあ、花火大会行きたいなあ」
 じゃがバターをかき混ぜながら絵里香が口を尖らす。
「まだまだこれからあちこちであるじゃない」
「そうだねえ」
「夏はまだこれからだよ」
 夏が嫌いな由梨だったが、こうやって皆でじゃがバターを食べるのはなかなか楽しかった。