「戦うって、何と戦うんだろうね?」
「うーん……。場合によりけりだけどさ。案外、自分とだったりしてね」
弱い自分と。
「そうだね」
「我慢することだって戦いだよ、きっと」
優しい美紀はそんなふうに言ってくれる。
「うん……」
おかげで気持ちは落ち着いた。
「美紀ちゃんも、好きな人ができたら教えてね」
「はいはい」
美紀は自分みたいにバカじゃないから素敵な人を好きになるのだろうな。そんなことを思いながら眠りについた。
幸いというべきか。作業が忙しくて実働時間中は周りに気を配る余裕はない。以前は余計なおしゃべりに気を散らされるのが悩みだったが、今となってはそんな雑音もない。
ときおり睦子の高い声が耳についたが、無の境地で乗り切る。それでも感光体の表面を見つめながらいろんなことを思い浮かべてしまう。涙が滲みそうになる。メンドクサイ女だ、自分は。
そうこうしていると地元の夏祭りの日がやってきた。週末の二日間に行われる、花火大会がメインの夏のビッグイベントだ。
由梨の班はこの日は中勤に当たっていた。まさに花火の音が夜空に響いている間、ちまちま仕事をしなければならない。絵里香は完全に拗ねていた。仕方ない。
「ねえねえ。じゃがバタ買ってきてよ。じゃがバタ」
朝勤の白井に絵里香がねだっている。
「買ってきてあげなよ、白井くん」
土曜日なのに出勤している小田が、横から口を出す。
「なんなら僕が奢ってあげるから」
「やったー。工程管理者は違うなあ」
調子のいい絵里香の言葉に小田はにこりとする。
白井は上司のおつかいならという感じで、後で届けに来ることを約束した。なにしろ今日は土曜日だから、会社全体がそういうことが許される空気感なのだ。
わがままを聞き入れてもらえた絵里香は機嫌よく検査ステーションに入る。言動はまだまだ子どもだけど彼女は集中力がある。検査員としては由梨より優秀だったりする。それぞれ特質があるのだと思う。
検査が三人体制になってからは休憩時間は一人ずつ取るようになっていた。由梨の順番はいちばん最後だ。食事休憩は時間が長いので自分の順番まで待つのがつらいときもある。リーダーなのだから仕方ない。
今日もお腹をぐうぐう鳴らして食堂代わりの会議室に入りおにぎりを食べているとき、打ち上げ花火の音が聞こえてた。
ブラインドを持ち上げて見たけど、そもそもこちらの窓は方向が逆だ。華々しい火花の音を聴きながら由梨は長椅子に座りなおす。
これは確かに虚しい。思っていたらノックの音がして小田が顔を出した。
「ちょっとおいでよ」
「うーん……。場合によりけりだけどさ。案外、自分とだったりしてね」
弱い自分と。
「そうだね」
「我慢することだって戦いだよ、きっと」
優しい美紀はそんなふうに言ってくれる。
「うん……」
おかげで気持ちは落ち着いた。
「美紀ちゃんも、好きな人ができたら教えてね」
「はいはい」
美紀は自分みたいにバカじゃないから素敵な人を好きになるのだろうな。そんなことを思いながら眠りについた。
幸いというべきか。作業が忙しくて実働時間中は周りに気を配る余裕はない。以前は余計なおしゃべりに気を散らされるのが悩みだったが、今となってはそんな雑音もない。
ときおり睦子の高い声が耳についたが、無の境地で乗り切る。それでも感光体の表面を見つめながらいろんなことを思い浮かべてしまう。涙が滲みそうになる。メンドクサイ女だ、自分は。
そうこうしていると地元の夏祭りの日がやってきた。週末の二日間に行われる、花火大会がメインの夏のビッグイベントだ。
由梨の班はこの日は中勤に当たっていた。まさに花火の音が夜空に響いている間、ちまちま仕事をしなければならない。絵里香は完全に拗ねていた。仕方ない。
「ねえねえ。じゃがバタ買ってきてよ。じゃがバタ」
朝勤の白井に絵里香がねだっている。
「買ってきてあげなよ、白井くん」
土曜日なのに出勤している小田が、横から口を出す。
「なんなら僕が奢ってあげるから」
「やったー。工程管理者は違うなあ」
調子のいい絵里香の言葉に小田はにこりとする。
白井は上司のおつかいならという感じで、後で届けに来ることを約束した。なにしろ今日は土曜日だから、会社全体がそういうことが許される空気感なのだ。
わがままを聞き入れてもらえた絵里香は機嫌よく検査ステーションに入る。言動はまだまだ子どもだけど彼女は集中力がある。検査員としては由梨より優秀だったりする。それぞれ特質があるのだと思う。
検査が三人体制になってからは休憩時間は一人ずつ取るようになっていた。由梨の順番はいちばん最後だ。食事休憩は時間が長いので自分の順番まで待つのがつらいときもある。リーダーなのだから仕方ない。
今日もお腹をぐうぐう鳴らして食堂代わりの会議室に入りおにぎりを食べているとき、打ち上げ花火の音が聞こえてた。
ブラインドを持ち上げて見たけど、そもそもこちらの窓は方向が逆だ。華々しい火花の音を聴きながら由梨は長椅子に座りなおす。
これは確かに虚しい。思っていたらノックの音がして小田が顔を出した。
「ちょっとおいでよ」