由梨は自転車を降りて駐輪スペースに向かう。
「これが夕飯だったりする?」
「もちろん」
「じゃあ、中で食べてこうか」
「そうっすね」
 セール中のボリュームパックが目当ての客は多かったが、会計をすませて商品を受け取った人たちは、家路を急ぐように表に出ていく。イートインのテーブル席には由梨たちふたりだけだった。

「ここのお店の久し振り」
「普段は買うことないっすよ」
「わたしも。高級品だもん」
 熱々にかじりつくとスパイスの香りが鼻をつく。柔らかくて美味しい。

「白井くん朝勤だよね。今帰り? 遅くない?」
「小田さんのお手伝いしてたっすよ。なんか写真ばしゃばしゃ撮られました」
「はは……」

 手掴みで骨を分解して由梨はひとつをきれいにたいらげる。白井は感心したように骨の残骸を見つめる。
「きれいに食べるっすね」
「そうかな?」
 二つ目にかぶりつきながら由梨は目を丸くする。人とは何か違うのだろうか。由梨にとってはこれが当たり前だが。

「だいたい女子がフライドチキン食してる現場を目撃したのは初めてっす」
「……」
 さすがに恥ずかしくなって、乗り出していた体を椅子の背凭れの方に引く。
「いいんすよ。そこが由梨ちゃんのいいとこっす」
「褒められてる感じがしない」
「褒めてます」
 微妙に笑っていたかと思ったら、白井は気遣うような表情になって由梨の顔を覗き込んだ。

「でも、今日はなんかあったんすか?」
「え、なんで……」
「いつもの由梨ちゃんだったら肉食ってるときはもっと幸せそうっすよ。今日は元気がない感じです」
 危うく肉を落としそうになる。
「ヤなことありましたか?」
 由梨はくちびるを噛んだまま瞬きもできなかった。あったよ。大ありだよ。そして感情が溢れ出しそうになる。寂しい。寂しい。

 この気持ちを宥めるのは簡単だ。方法なら知ってる。白井に訴えればいい。生い立ちを話して聞かせればいい。大抵は同情してもらえることを由梨はもう知っている。そして部屋に誘えばいい。白井はきっと断らない。憎からず思われていることもちゃんとわかってる。縋ればきっと受け止めてくれる。由梨にはもうそれがわかってる。