「なんかさあ。すごかったって聞いたけど」
「大体想像つくよねー」
「まったくしょうがないよねえ」
「うちのお母さんヒステリーだからさ」
 従妹たちはそう言ってはくれるが、気持ちは籠ってはいても芝居がかった話し方だ。由梨は上辺だけだと感じる。睦子と同じだ。

「……うちの母が悪いんだよ。はすっぱだからさ」
「ううん、そんなことないよ」
 姉の方がひと際熱のこもった様子で由梨の言葉を否定する。ものすごく芝居がかっている。わかりやすく親切心を示すのが上手いのだ。
 だから祖母もこの子たちを可愛がる。初孫である由梨のことだって可愛がってくれてはいるが、それでも母や上の伯母は「見る目が違う」などと言う。この姉妹に対するのと他の孫たちへの態度が違うと言うのだ。

 住処が近いこの子たちがいちばんすごす時間が多いのだから、態度に違いくらい出るだろうと由梨は思うが、母たちは気に入らないらしい。母たち姉妹が感じてきた不平等感は根深いものがあるらしく、こんな年になってまで引きずっているのだ。
 兄弟のいない由梨にはわからないが、同性の姉妹ともなると親の愛を奪い合うライバルであるらしい。美紀がそんなことを言っていた。

 祖父が亡くなってから酷くなったのではないか。由梨はそんなふうに感じもする。仏壇の厳めしい顔の祖父の遺影を眺めて思う。おじいちゃんはこの騒ぎをどう思ってるかな。元を質せばおじいちゃんが悪かったりするんじゃないかな。遺影の祖父の目が益々鋭くなった気がして、由梨は首を竦めた。

 考え事をしていたから従妹たちの話を聞いていなかった。
「由梨姉ちゃんは結婚しないの? 付き合ってる人とかは?」
 エリートとはいえ高校生ともなると興味があるのはそこなのか。それとも祖母が気にしていて、それを聞いているから代わりに問いかけてきたのかもしれない。
「全然。まったく。まだまだ」
「由梨姉ちゃんカワイイのに」
「ねー」

 身をよじってはしゃぐ姉妹の向こうで、祖母が小さな声でつぶやいた。
「いくらなんでも、躾もできてないような子じゃあ……」
 はっきりと聞こえてしまった。喉がぎゅっとして言葉に詰まる。
 由梨はそれはそうだけど、と思う。母はちゃらんぽらんで躾なんてされた覚えはない。きちんとした家庭で育った従妹たちとは違う。