日差しが痛くて由梨は手を伸ばしてブラインドを下ろした。路線バスは住宅街のメイン通りを上っていく。
 天気が良く気温はぐんぐん上昇しているようだ。樹々の緑も日差しに負けてしまっているかのよう。季節は真夏に向かっている。暑いのが苦手な由梨は夏がいちばん嫌いだ。
 バス停からの道のりを、つい先日歩いたときよりも遠く感じる。途中でペットボトルの水を飲んだ。

 祖母の家のガレージはがらんとしていた。母は祖父の遺品の車はもらっていったのだ。既に母の名義になっているとはいえ、そのことだって悪し様に言われているに違いない。
「由梨ちゃん、よく来たね」
 祖母は意外と明るく由梨を迎えてくれた。
「おばあちゃん、大丈夫?」
「まったくねえ、どこの親子も姉妹もうまくいかなくてねえ」

 愚痴とはいかなくても母と上手くいっていないことを祖母が叔母に話したのだろうな、とは思う。もともと母と仲の良くない叔母はそれが我慢できなくて怒鳴り込んできたのだろうな、とは思う。
『ここは私の家だからあんたは出てけ』
『ああ。出てってやるよ。二度と帰ってくるもんか』

 そんなふうに売り言葉に買い言葉だったらしい。確かに母がここに来る前は叔母がいちばん頻繁に出入りしていた。おばあちゃん子の従妹たちもちょくちょく泊まりに来ていたらしい。母が同居し始めてからはそれもぱったり途絶えた。お互い気を使ってはいたのだ。それなのに。

『ばあさんがみんな悪いんだよ。あの人のせいでおかしくなっちゃった』
 母は何度もそう言っていた。由梨にとっては優しい祖母でも、母たち姉妹にしてみれば子ども時代からのわだかまりがあるのかもしれない。
 由梨は「ごめんね」と謝る気にもなれず沈黙が流れる。気まずい。

「おばあちゃーん」
「いるー?」
 玄関から涼しい声が聞こえてきた。由梨はほっとして立ち上がる。あの声は件(くだん)の従妹たちだ。
「あ、由梨姉ちゃん」
「久し振り」
「聞いたよー。うちのお母さんがごめんねえ」
 姉妹の姉の方が顔をしかめながら由梨に謝罪してくる。良い子すぎて由梨はこの子たちが少し苦手だ。

「おばあちゃん元気? 大丈夫?」
「よく来たねえ」
 祖母は目尻を下げて姉妹に笑いかける。祖母の傍らを従妹たちに譲って由梨は少し離れて座る。